表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
146/311

第一章  歓談部の平和な日常(5)

 部室から出ると、少し離れた場所で早織が外を眺めていた。


「お待たせ月宮ちゃん」


 藤原が笑顔で手を振りながら早織に近づく。藤原と黒神に気付いた早織は彼らの方を向いて、


「あんまり時間かからなかったんですね。で、2人でどこに行くんですか?」

「ああ、ランク戦をしようかと思ってね。終ちゃんにもいい機会でしょ」


 それを聞いて、早織は少し不満げな表情を浮かべた。


「終ちゃんの初めてが奪われそうで不満かな?」

「誤解を生むような言い方はやめてください!!」


 黒神には2人の会話の真意は分からなかったが、早織が弄られてるのだけは分かった。

 結局、早織も黒神たちに着いていくことになった。


 ランク戦は特定の施設でのみ行われる。大抵の高校はそのような施設を有しており、またそこには回復系の能力者が交代制で常駐している。


 よって、いつでもランク戦を行うことが出来るのだ。

 黒神の学校の場合は、体育館の隣にドーム上の巨大な建物があり、そこがランク戦用の施設となっている。


「さて、空いてるかな?」


 中は数十個の部屋に分かれており、各部屋でランク戦が行える。それほどの広さである。

 中に入るとすぐに受付があり、強面で黒服の大男が立っていた。時間帯によっては綺麗なお姉さんがいたりするのだが、今回は運が悪かったようだ。

 少し怖気づく黒神を見て微笑しながら、藤原が受付へと歩いていった。


「ねえ黒神君、どうして先輩とランク戦を?」


 早織が隣から尋ねてくる。黒神は彼女の方へと視線を移しながら、


「まあ、いい経験かなって」

「私のときは断ったのに?」


 何故か、その言葉には強い感情が込められていた。その証拠に、早織は頬を膨らませてジト目で黒神を見ている。少し、というよりもかなり不満そうだ。


「あ、いやその……先輩とはあと数ヶ月で会えなくなるしな」


 早織は納得していないようだったが、藤原が受付を終えて戻ってきたために会話は中断された。

 そして、藤原が受付で指定された部屋へと2人を案内する。


「観戦で来たことはあったけど、まさか当事者として来ることになるとは……」

「はは、そっかそっか。終ちゃんは観戦だけだったか。ちなみに、僕の能力は見たことある?」


 藤原は前を向いたまま黒神に尋ねた。


「そりゃあ、部長ですし。でも、一体どういう能力なのかまでは。あの時はそんなこと気にしてませんでしたし、うちの部長って超強いんだなくらいにしか……」


「ふむ、僕は終ちゃんの能力を知ってるけど、終ちゃんは僕の能力を知らないか。ここは教えないでおこう。今後はこういうシチュエーションが多いだろうし、特に終ちゃんの場合はね」


 そう、黒神はエデンの中では有名人だ。ランク戦の相手が黒神のことを知っていても、黒神自身は相手のことを知らないという状況は多くなるだろう。故に、藤原は自分の能力のことを話さなかったのだ。


 というのは、まだ踏み込んでいない早織の理解である。

 黒神は藤原の真意に気付いていた。


 すなわち、『楽園解放』の残党やエデンの実験関係者との戦いのことである。彼らは、エデンの一般人よりも黒神のことを知っている。その弱点さえも研究してくるはずだ。


 つまり、黒神は今後常に不利な状況から戦いを始めなければならない。ババ抜きで自分だけ手持ちのカードを相手に見せながら戦うようなものである。


「さて、ここだ。準備はいいかい」


 目的の部屋に着くと、藤原は振り返った。そして頷く黒神を見て、部屋のドアを開ける。





 そして、初めてのランク戦が始まる。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新作投稿開始しました→「風と歌と勝利のΔ(ラブ・トライアングル)
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ