終章 黒キ結末(2)
話は1月13日に進む。
赤城と氷川はホープの『裏』を歩いていた。『黒』の支部壊滅により、敵から奇襲をかけられる可能性はかなり低くなった。これが、1月1日の作戦の分かりやすい成果だろうか。
「眼鏡とコンタクトを一々変えるのって面倒じゃないの?」
「否定はしませんが、どうも外で眼鏡というのは……」
赤城はあの作戦の後一度『表』に戻って着替えなどを持ってきた。ボロボロになった制服は破棄し、新しいものを注文している。現在着ているのはスペアだ。
氷川は黒い無地の長袖の上に白いジャンパーを着て、下はジーパンという姿であった。
「そういえば、あの時氷川ちゃん何か言ってたよな。何だっけ、確か……覚えてないとかなんとか」
「え!? そ、そんなこと言ってませんよ? というか、それよりも!! 焔さん言いましたよね、この戦いが終わったらちゃん付けを止めるって!」
氷川は餌を頬張るハムスターのように頬を膨らませて赤城に詰め寄る。
「止めるとは言ってない。考えるって言っただけだ」
「で、でも、その……だ、大体私がいなければ焔さんは死んでたんですからね!? その辺りの恩も感じていただかないと」
「アリガトウゴザイマシタ」
「何で棒読みなんですか!! 感謝してるならちゃん付けを止めてください!!」
「分かったよ」
「ああ、良かった。ようやく焔さんも分かってくれまし――」
「これからはひかわんな」
「だから何なんですかその名前は!!」
「じゃあ、何て呼べば良いんだよ」
氷川は赤城から目をそらし、恥ずかしそうに手遊びをしながら、
「その……いえいえ、何でもありません! 氷川とお呼びください」
「…………」
無言の赤城が気になり、顔を伏せたまま横目で彼を見る。すると、彼は自分のデバイスでインターネットニュースを閲覧していた。
「終夜、頑張ってるんだな。俺も頑張らないと……決めたんだからな、俺は『こちら側』からお前を助けるって」
「人の話を聞いてください!!」
氷川は再び頬を膨らませて、赤城のわき腹を小突いた。
「ちょ、氷川ちゃん、やめっ」
「ちゃん付けに戻ってるじゃないですかもぉぉぉぉおおおおおおおおおおおお!!」
何度もわき腹を小突かれながら、赤城は暗がりの中へと進んでいく。
今、少しだけ交わった光を断ち、闇へと進む。それが彼の決めた道。次に彼が光と交わるのは、一体いつになるのだろうか。
そして、彼を待つものとは――
こうして、『裏』の物語も動き出した。
だがその終焉は、すぐそこに迫っているのかもしれない。