第二章 絶望の急襲(1)
黒神終夜は、まだ自分の部屋で正座をしていた。そして、彼に向かい合うかたちで朝影光も正座をしている。
男子の独り暮らしにしては片付いた部屋だが、逆に質素な気もする。
「時間が無いわ。とにかく、能力についてさくっと説明するわよ」
ちなみに、両者顔に絆創膏を張っている。先の戦いで負った傷を治すためだ。
能力について朝影が説明している理由は、黒神が今まで能力についての授業を真面目に受けてこなかった点にある。
能力が無かったため、自分には関係ない。そう思っていた彼はろくに授業を聞いてこなかったのだ。
「属性が色々あるのは……まあ、これは実践で出会う方が早いわね。それよりも、貴方と同じ無属性の能力についてよ」
能力と言われれば、炎を出したり風を吹かせたりというものがイメージされやすいが、実はその大半を占めるのは無属性の能力なのである。
無属性の能力にはさらに様々な種類があり、身体強化や精神操作も無属性の中に入る。基本的に、炎や水など一般的に属性として分類されるもの以外はすべて無属性と考えていいだろう。
「そして、貴方の能力は……残念だけど、まだ検討がついてないの。多分、身体強化だと思うけど、それだけじゃ『冷却』で凍らないことに矛盾が生まれるのよね」
身体強化は肉体の一部分を強化するものだ。確かに、全身を強化する者もいるが、それでは物体そのものを凍らせてしまう『冷却』を回避する理由にはならない。
「……はあ、能力の種類が分からないと特訓のしようが無いのに……」
そう、能力の種類が分からなければどのような特訓をすれば能力を成長させられるかが分からない。
「もう一度、使ってみてくれる? 多分、使い方は分かるでしょ?」
「ああ、そういえば……朝影と戦ったとき、自然と使い方が分かったんだよな。あれって――」
「さっき説明したけど、能力はそもそも遺伝子に潜在してるの。言うなれば、その能力の使い方を最初から覚えてるってところかな。デバイスで強制発現させるならちょっと勝手が違うから、1から鍛えなきゃいけないけど……とにかく、もう一度使ってみて」
黒神は朝影との戦いを思い出す。あの時、自分はどうやって能力を使った?
「確かこうやって集中して……」
朝影の全力の『氷槍』を砕いたとき、彼は右手に意識を集中させていた。なので、とりあえず右手に神経を集中させる。
「集中? やっぱり、身体強化じゃないわね……」
数秒経って、黒神の右手から白いオーラが現れた。そのオーラはどんどん広がっていき、遂には彼の全身を包み込む。
「……これだ」
「集中……そして、広がるオーラ」
通常、オーラは一気に全身を包む。だが、黒神は場合はまず意識を集中させた場所から始まり、前進を包む。
そうまるで、黒神の『氣』を追うように。
「つまり、『氣』を操る能力ってこと? 確かに、説明はつくけど……でもありえない。だってその能力は――」
『氣』を操る能力の存在は否定されている。
そもそも、『氣』自体が未だ解明されていない人間の神秘。それを操るなど、不可能に近い。だが、精神操作の能力がある以上、完全に否定は出来ないだろう。精神も、人間の神秘である。
と、すればやはり。
「信じられないけど、貴方の能力は『氣』を操る能力ね」
「信じられない?」
白いオーラを維持したまま、黒神は問う。
「幻の能力なのよ、それ。そりゃ、私じゃ勝てないわけだ」
呆れたようにため息を吐き、朝影は立ちあがる。そして、黒神の目を見つめながら、
「とにかく、特訓を始めるわよ! いつ『楽園解放』が攻めてきてもおかしくないんだから」
ブルーの瞳の少女に見つめられながら、黒神は思う。
(え、もしかしてここでやるの!?)
そうなれば、彼は借金生活まっしぐらである。