第三章 覚悟ノ焔(7)
Sとは、Supplyのことである。その意味は、供給。つまりSが示しているのは補給所だということだ。赤城はその話を狩矢から聞いていた。その場所は、一体どこだったか。
「おいおい赤城! 真正面から戦おうって気持ちはあらへんのか!?」
ただ逃げるだけの赤城に、鏑木は苛立ちを見せていた。体から電撃弾を発射しているが、その喪服が破れることはない。実際は体から発射されているのではなく、体外に放出した電気を弾状にして発射しているからだ。
炎の壁は鏑木の電撃弾を数発防いだだけで消えてしまう。だから、鏑木も走ることが出来る。
「あん? 炎の壁が……」
少し進むと、炎の壁が無くなった。赤城の足音も消えている。
「となると……この近くの建物に隠れたか。って、お前馬鹿か!?」
鏑木の右手に見える納屋の扉が開いている。それも、全開だ。
「誘ってる? とはいえ、どこに隠れても俺の能力の有利は覆らへんで」
鏑木は素直にその納屋へ向かった。たとえ後ろから奇襲をかけられたとしても、対応出来る自信が彼にはあった。
「さて、チェックメイトや!!」
窓が奥に1つあるだけなので、納屋の中は薄暗かった。入り口から差し込む光が唯一の光源だ。そして、狭い納屋でその光に照らされて立っているツンツン頭の男が1人。
「赤城、諦めはついたか?」
「諦め? いいや違うな。覚悟だ」
「覚悟、ね。死ぬ覚悟とでも言うつもりか」
「ああ、そうだ」
赤城は真剣な表情でそう言った。だが、その拳は小刻みに震えている。それを見て、鏑木は口を大きく開けて笑った。
「あはははははは、死ぬ覚悟ね。体を震わせながら何言うてんねん」
「お前のとこのリーダーに言われたよ。人を殺す覚悟だけじゃ足りないってな。人を殺していいのは、自分が死ぬ覚悟をもった者だけだって」
「それとこれと、何の関係があるんや。 まさか、俺を殺せると思ってるんか?」
「思ってるよ」
鏑木の顔が歪む。これまでの苛立ちが、今の赤城の言葉で表情として出るようになってしまったのだろう。
「お前、自分の状況分かってへんのか! 今この場で俺が『雷電機銃』を使えば、お前は何も出来ずに死んでまうんやぞ!!」
「お前こそ分かってるのか? ここが一体どういう場所なのか」
「ここが……?」
鏑木は警戒して両手を広げながら、周りに目を凝らす。すると、様々な大きさの木箱が見えた。中には蓋が開いている物もある。その中からは、黒い粉のようなものが見えている。
「火薬……まさか!!」
「Sってのは、『白』では補給所を表す。『黒』も同じかもしれないが……さっき地図を見たとき、それが表示されていた。ということは、この補給所はまだお前たちにばれていないってことだ」
「だから俺を誘い込んだと……」
「そういうことだ。さあ撃てよ、『雷電機銃』を。お前に、その覚悟があるならな!!」
鏑木は歯噛みした。悔しさからか、拳を血が滲むほど握り締めている。
「お前は自分の有利ばかりを語っていた。確かにその能力は基本的には有利だよ。でも、だからこそお前は死ぬ覚悟なんか考えもしなかっただろうよ」
「お前ぇ!!」
赤城は、震えながらも毅然と笑って見せた。対して、鏑木は唇からも血を流し始めている。
「……やっぱり、そうだよな。お前を見てると怒りだけが湧いてくる。自分は安全圏にいて、他人をいたずらに殺す。そんな奴、許せるわけが無い」
闇野はそれを言いたかったのだろうか。『黒』のリーダーで敵だとはいえ、赤城は彼に尊敬の念を抱いた。
思えば、神原もそうだったではないか。片腕を失っても赤城や黒神と戦い続けた。それは、自分が死してでも敵を倒そうと思ったからだろう。大きさなど関係ない。1つの集団をまとめる者たちはそれだけの覚悟を決めた者でなければならないということだ。
「それに加えて、死なないだけの実力があるってのが人の上に立つ者の資質ってところか」
「何を言うてんねん!! 大体、お前もここでは何も出来へんやろ!! その炎の能力は、ここで使えば……」
「だから言っただろう、俺は――」
言いかけて、赤城は両手を鏑木に向けた。その手に炎を纏う。
「死ぬ覚悟を決めた」
その体は震えていたが、心だけは真っ直ぐと。