第三章 覚悟ノ焔(6)
鏑木の能力は広い場所よりも、狭い場所で有利となる。つまり、狭い場所の多いホープの『裏』において、彼が不利となる状況は殆ど無いのである。
「せやから、どこに行こうと無意味やで。お前を殺した後、あの嬢ちゃんを……あっちの方が強そうやしな」
「…………」
赤城は近くの曲がり角で身を潜めていた。これ以上逃げても無意味だと判断したからだ。
このまま『黒』の支部へ逃げて、成宮に助けを請うことも可能ではあるが、彼は今『黒』のリーダーである闇野と戦っている。助けは期待出来ないだろう。
「さて、どこに隠れとるんや? いい加減戦おうや。少しくらいなら手加減してやるで」
鏑木の足音がゆっくりと、しかし確実に赤城の場所に近づいてきている。
(あいつの電撃弾は炎の壁で多少防げる。けど、どうする? 防げたとしても、逃げるだけじゃ勝てない。ここに、この場所に何か無いか! 何か……)
赤城は自分のデバイスを操作して、地図を表示した。そこには――
(はは、真ぉ……お前は本当に凄い奴だよ。奴を倒すにはこれしかない!!)
ニヤリと笑った赤城の頬には、べっとりとした汗が滲んでいた。
「マジで出てこーへんつもりか。それとも、恐怖で体が動かへんのんか?」
鏑木は大きな声で言いながら、先にある十字路へと進んでいく。十字路とはいえ、古い建物が密集しているためかなり狭い。赤城の姿を見た瞬間に『雷電機銃』を発動すれば、すぐにでも決着はつく。
「右か、左か。ここは足音が響くからな、それが聞こえへんってことはまだ近くで隠れてるってこと……はよ観念した方が楽やで」
十字路の手前まで辿り着くと、鏑木は視線を左右へ動かす。そして、左へと向かおうとした時、
「鏑木、俺はここだ!!」
反対側から、金髪の男が姿を現した。その服はボロボロで、露出している肌には所々に固まった血が付着している。
「その勇気に敬意を表して、名前を聞いておこうか」
「赤城焔、お前を倒す者の名だ!!」
「あははははっ!! 赤城、お前面白い男やな。なら、これを切り抜けてみせろ!!」
鏑木が両手を広げると、彼の体中から電撃弾が発射された。それが道を埋め尽くす。
「やるしかない。一か八か!!」
赤城はその拳を地面に叩きつけて、炎の壁を作り出す。そうして後ろへと走り出し、途中途中で炎の壁を作っていく。
炎の壁は縦こそ長いものの、横の幅は赤城の体を隠すほどしかない。なので、彼の横には無数の電撃弾が通り過ぎている。
「また逃げるのか赤城!!」
電撃弾の音に混じって、鏑木が追ってくる音も聞こえてくる。その音に、赤城は汗を流しながら笑っていた。
狩矢がこの展開を予想していたとは思えない。だが、彼がいなければ赤城がこの考えに至ることは無かった。だからこそ、赤城は狩矢に感謝した。
(でも、この戦い方は……)
同時に、彼はまだ迷っていた。この作戦では赤城は死んでしまうのだから。