第三章 覚悟ノ焔(5)
人間の体には、微弱ではあるが電気が流れている。脳からの電気信号が分かりやすいだろうか。
鏑木の能力である『雷電機銃』は、体内の電気量を増幅させ、それを粒状にして体外に放出するというものだ。だが、彼自身が話していたように、機銃とはいえ所詮は電気だ。人間の体は貫けても、建物の壁などは貫けない。せいぜい、焦がすのが限度だ。
もちろん、彼以上の能力者であれば壁すらも貫けるかもしれないが。
「この量は避けられへんやろ!!」
現在、彼の体の至る所から電撃弾が発射されている。そして、赤城たちは彼の直線上にいるのだ。
本来ならば、もう少し距離を稼げていたはずなのだが、鏑木の氷川の攻撃からの復帰が予想以上に早かったためこのような状況になっているのだ。
「くそっ!!」
赤城は振り返って炎を纏った拳を地面に叩きつけた。すると、そこから赤城の身長よりもかなり高い炎の壁が出現した。
「この壁もそう長くは持たない。急ごう!!」
炎の壁は鏑木の電撃弾を防いでいるが、段々と炎の勢いが弱まっている。
「2手に別れよう。氷川ちゃんは左、俺は右だ」
「分かりました! ですが、そろそろちゃん付けは止めてください」
「この戦いが終わったら考えるよ」
「その言葉、忘れませんからね!!」
そう言って、赤城と氷川は目の前に見えた十字路で2手に別れた。
右に曲がった赤城は、その道を見て狩矢のことを思い出した。
(ここって、確か真と一緒に歩いた道だよな……)
もう、彼はこの世にはいない。2度とこの道を一緒に歩くこともない。それが、人の死というものだ。いつも苦しむのは残された者である。
(とにかく、今はあいつを倒すしかない。氷川ちゃんの方に行ってくれるのが1番いいんだけど、そう上手くはいかないよなぁ)
氷川の能力は強力なものだ。加えて、今度は赤城という障害が無い。この状況では赤城よりも氷川の方が戦闘には適任なのだ。
だが、赤城の後方からへたくそな関西弁が聞こえてきた。そう、鏑木は赤城の方を追いかけてきたのだ。
赤城は前方の十字路を直進する。鏑木が追いかけてきているのだが、彼は狩矢と共に通った道を行く。
(真が、助けてくれる気がする。もちろん根拠なんかないけど……それでも!!)
舞台は、最終決戦の場へと移る。
赤城の生死は、ここで決まる。