第三章 覚悟ノ焔(3)
その地には、幾度となく轟音が響いていた。
戦いを終えて、その場に座り込んでいた者も彼らの戦いから目を離せないでいる。目の前に敵がいても、その場から動くことが出来ない。
それもそのはずだ。なにせ、『裏』の二大勢力の頂点同士が戦っているのだから。
「清二、貴様弱くなったか?」
「黙れ氷河。君こそ、腕が落ちたのではないか?」
成宮清二と闇野氷河。
拳をぶつけ合い、回し蹴りを繰り出し、それを回避した勢いでまた拳を振るう。成宮が頭突きをすれば闇野は肘打ちでそれを受け止める。闇野が膝蹴りをすれば、成宮は闇野の膝を手で受け止め、その腹にもう片方の拳を叩き込む。
一進一退。
だが、彼らは未だに能力を使っていない。今行われているのはただの殴り合いだ。それだけなのに、まるで地が震えるような音がする。
「私は君をさっさと倒して、本部に向かわなければならない。だから早くそこをどいてもらおうか!!」
口から血を吐き出しながら成宮は言う。
「連れないこと言うんじゃねーよ。もっと楽しませろよ」
闇野は成宮の拳を姿勢を低くして避け、そのままタックルをしかける。それを避けられなかった成宮は後ろにあった壁に体を叩きつけられてしまう。
「ぐっ……氷河、君は――!!」
「またいつもの説教か? いい加減聞き飽きたぞ。貴様にも目的があるように、俺様にも目的がある。今更変わることなんか出来ねーよ」
「どうしてエデンを守ろうとするんだ!! エデンは皆を不幸にする。そんなもの、壊してしまった方がいいだろう!」
「ちげ-な。寧ろエデンを壊す方が皆を不幸にするんだよ。清二が抱えてる理想なんか知ったこっちゃねーが、それだけは確かだ」
成宮は歯噛みして、腰にしがみついている闇野の顎に膝蹴りをした。闇野の体が一瞬だけ浮き、成宮の腰に回していた手が外れた。
どれだけ議論しようとも、一方通行。交差こそすれど、同じ道に進むことは無い。
成宮は闇野の体を蹴り飛ばし、壁から離れた。
長年、彼らはこのようにして戦ってきた。そして、これからも戦っていくのだろう。
突き詰めれば、『裏』とはこの2人の争いの場であるのかもしれない。
再び、轟音が響いた。