第三章 覚悟ノ焔(2)
地獄絵図。
ドアを開けてすぐに目に入った『白』の本部の現状を表現するなら、この言葉だろうか。
「どうなってるんだよ、これ」
「酷すぎます……何をどうしたらこんなに……?」
昼間だと言うのに、中は薄暗い。電気は全て壊されていて、光源が窓から差し込む太陽の光だけだからだろう。
壁は崩れていないものの、弾痕のような傷が無数に付いていてそれを目立たせるように、大量の血が飛び散っている。
血の原因は、床に倒れている者たちだろう。全員が体中に穴を空けられており、その姿は目も当てられない。中には体を引きずったことを証明するように血が伸びている場所もある。その血の主は、必死に助けを乞うたのだろう。
他にも、デバイスらしき物を持って絶命している人間もいた。
血生臭さと、焦げた匂い。醜悪な匂いが赤城たちの鼻を劈く。
「氷川ちゃん、大丈夫か?」
「……正直、吐きそうです」
2人は鼻と口を手で覆いながら奥へと進む。
「皆殺し、か。くそっ! どんな精神状態ならこんなことが出来るんだよ!!」
「焔さん、あそこに倒れている女の子の耳、光ってませんか?」
そう言って、氷川は血塗れで倒れている金髪でツインテールの少女を指差した。彼女の耳にはイヤリングが付いており、それが青色に光っている。
「これ、デバイスか? しかも、録音状態になってる」
赤城は極力少女の体を見ないようにしながら、イヤリングを外した。そして、録音状態を解除する。
「録音は衝撃で出来るものではありません。もしかしたら、何か伝えたいことがあったのかも……」
「ごめんな、デバイス使うぞ」
もちろん、少女から返事などあるわけがない。だが、赤城はそれを言わずにはいられなかったのだ。
赤城は少女のデバイスの画面を操作して、録音されていたものを再生する。その冒頭に、下手くそな関西弁を喋る男の声が入っていた。
『俺の能力は建物みたいな硬いものは破壊できへんからな。まあええわ、中を滅茶苦茶にしとけば任務完了やろ。全く、難儀な能力やで。建物に篭られたら太刀打ちできへんもんな』
それ以降は、機関銃のような音やその男のものであろう足音くらいしか入っていない。
「これって、敵の声なのか?」
「ええ、恐らく。この情報は大きいですね」
「……氷川ちゃん、上から何か聞こえないか?」
「え?」
耳を澄ましてみると、確かに2階からギシギシという音が聞こえる。
「足音、ですか? だとしたら、まさか……」
「構えろ。来るぞ」
足音の主は階段に足をかけたらしい。あのオンボロの階段から嫌な音が鳴り響く。1歩1歩、ゆっくりと下りてきているらしい。
そして、その大男は現れた。