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第二章  ソノ覚悟ハアルカ(13)

 覚悟を決めた赤城の炎は空中で竜巻を操っていた少年の腹部を貫き、その命を砕いた。絶命する直前、少年は落下しながらも赤城の方を見て、怒りをその顔に表していた。


「……殺した。はは、人を、しかも俺より年下の奴を……」


 少年が地に伏した後も、赤城はその場に立ち尽くしていた。ここで別の敵が襲ってこなかったのは奇跡と言えるだろう。


「そうか、こんな感覚なのか。人を殺すってのは」


 後悔? 否。悲哀? 否。怒り? 否。

 その感情の名を、彼は知らなかった。だから彼は俯いたまま、自分の顔に表れようとする感情を抑えようとしなかった。


 すると、彼は口を開けずにはいられなかった。肩が震えているのが分かる。そうだ、今彼の体はこのまま叫ぶことを望んでいるらしい。だから――


「あははははははははは! はははははははははははははははははははははははははははははははは!!」


 決して嬉しいわけではない。少年の死が面白いわけでもない。しかし、笑わずにはいられなかったのだ。笑わなければ、彼の大事な何かが壊れてしまいそうだったから。


 周りでは未だに轟音が響いていて、彼の笑い声は遠くまでは聞こえない。聞こえているのは、氷川くらいだろう。


「焔、さん……?」


 そんな赤城を見て、氷川は驚愕した。そして、慌てて彼に駆け寄る。


「焔さん、しっかりしてください!! まだここは戦場です!」


 狂ったように笑い続ける赤城の体を必死に揺する。赤城は氷川に気付いて、笑うのを止めた。そして、彼女の肩を掴み、


「しっかりしろ? そうだな、しっかりしないとなぁ……お前の言う通りだよ。だったら教えてくれ……」


 赤城の肩を握る力に氷川は顔を歪める。だが、赤城はさらに力を込めて、氷川の顔に唾がかかるほどの距離で叫んだ。


「教えてくれよ、これでよかったのか!? 俺は今、自分よりも年下の人間を殺したんだぞ!! ああそうさ、覚悟は決めたさ。人を殺す覚悟を!! でもダメだったんだよ。あいつのあの顔を見た瞬間から、体中の震えが止まらないんだよ!! どうして自分が笑ってるのかさえ分からない!! やっぱり俺の覚悟は偽者だったんだろうな。そうだよ、やっぱり人を殺すのは怖いんだよ!!」


 その手は震えていた。段々と力が抜けていく。赤城の目からは大粒の涙が零れていた。


「……俺は、正しかったのか? 俺は……」

「っ!! いい加減にしてください!!」


 直後、乾いた音が鳴り響いた。氷川が赤城の手を振りほどいて、彼の頬を思いっきり叩いたのだ。赤城は横を向いたまま、瞬きを繰り返している。何が起こったのか分かっていないようだ。


「私が知ってる焔さんは、こんなにウジウジする人じゃありません!」

「はは、今日出会ったばかりの奴が何を言ってんだよ? 俺の何を知ってるってんだよ!!」

「やっぱり、覚えてないんですね。私のこと」


「……え?」

「とにかく、焔さんの覚悟は本物です。結局敵を殺せなかった私に比べれば……だから、自分を否定しないでください。悲しくなりますから……」


 嘆願するかのような氷川の声に、赤城はようやく自我を取り戻した。そして、今にも泣き出しそうな彼女の顔を見ながら、


「……ごめん。いや、ありがとうが正解か? 何とか、頑張れそうだ」

「それは、良かったです」


 2人は少し離れ、辺りを見回した。新手が支部から出てくる様子はない。その反対側には、先ほどよりも倒れている人間が増えていた。恐らく、今戦っている人間以外は支部の防衛をしているのだろう。


 となれば、後は成宮に任せて赤城たちは味方の援護をするのが正解だ。

 ちなみに、この時点でもう本隊は支部に突入していた。そのためか、たまに支部の壁が内部から破壊されている。


 制圧するのも時間の問題だろう。


「焔さん、とにかく行きましょう。これ以上味方を死なせるわけにはいきません」

「分かった」


 そう言って、2人は戦闘をしている味方の所へと走り出した。走りながら、赤城は考える。


(確かに声が聞こえた。その声に、俺は答えた。覚悟は決めた……と。でもやっぱり俺の覚悟は間違っていたのか?)


 下に向いた目線を前に戻したとき、赤城は急ブレーキを踏んだ。氷川も同じタイミングで止まる。

 止まった理由は、突然前方に男が現れたことだ。その男はズボンのポケットに手を突っ込んだまま、低い声で告げた。



「赤城焔、貴様は覚悟の意味を理解していない」



 直後、2人の体が後方に吹き飛んだ。

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