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第二章  ソノ覚悟ハアルカ(11)

 『酸素増減』。

 それが氷川葵の能力である。狙った範囲の酸素濃度を変化させるもので、その名の通り濃くも薄くも出来る。


 酸素の空気中での割合はおよそ20%。それが人間に適した環境だ。否、人間はその環境に適応するように進化してきた。


 酸素濃度が低くなれば人間は酸素欠乏症を起こし、高くなれば酸素中毒に陥る。どちらにせよ、酸素濃度の変化は人体に多大な影響を及ぼすのだ。


 氷川の能力に上限は無い。あるとすれば、酸素濃度を100%以上もしくは0%未満には出来ないことだが、そもそもそんなことは無理だ。割合は突き詰めても、0%から100%までしか実在しないのだから。


 だが、もちろん欠点はある。彼女自身赤城に告げていたが、効果範囲の指定が難しいのだ。少しでも集中が途切れれば、自分にまで能力の影響が及んでしまう。強力な能力故に、それは強力な自爆剤となりうる。


 あくまで、集中が切れればの話だが。


「っ!? ぶ、ふっ、はっ!?」


 その少女は天を仰いだまま胸の辺りをを押さえてのた打ち回っていた。


「何が起こったのか分からないでしょう? さすがに、殴られたことは分かるかもしれませんが」


 中学生くらいのショートカットの少女はようやく呼吸を確保したのか、苦しそうな顔をしながらも氷川の方に目を向けた。


「確かにあなたが走ってきたのには驚きましたが、気付くのが早くてよかったです。さっきまで、あなたの周りの酸素濃度を12%に低下させました。症状としては、めまいや吐き気……後はもちろん呼吸困難でしょうか」


 正確には、呼吸困難ではない。呼吸困難自体は二酸化炭素濃度の変化によるものだ。酸素欠乏は気付かないうちに起こる。少女が何も分からなかったのはそのせいだ。


「大丈夫ですよ。一瞬しか操作してませんので、後遺症は残りません。ですが……しばらくは動けないでしょうね」


 これが氷川の戦い方。ともすれば、最強の名さえ手にしてしまいそうな、それが『酸素増減』だ。


「……狩矢さんやリーダーは人を殺す覚悟をしろと言いましたけど、『今は』そんなこと出来ません。私はまだ、鬼にはなれないようです」


 少女は自分の体に力が入らないことに気付く。辛うじて顔だけは動かせるものの、先ほどまで動いていた腕などは感覚すらない。


 諦めて天を仰いだ少女を見下ろしながら、氷川は1度深呼吸をした。そして、轟音が響き渡る戦場を見回す。そこにはもちろん、赤城の姿もあった。

 敵の竜巻から生還した赤城の背中を見ながら、氷川は心の中で呟く。



(焔さん、私はあなたのためなら鬼になれるかもしれませんね)



 その真意は、まだ誰にも理解されず。

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