第二章 ソノ覚悟ハアルカ(10)
赤城が拳に炎を纏っていたのに対し、少年は拳の周辺に渦を発生させていた。そのため、拳がぶつかり合ったときに炎が渦となって霧散していった。
他の味方も戦闘を行っているので、偶に流れ弾が飛んでくる。乱戦の場では、これにも気を付けなければならない。
また、ここは大通りであるためかなり広い。アスファルトで出来た地面、周囲にはレンガ造りの建物が並んでいる。先ほどまで通っていた路地裏とは異なり、日差しが差し込んでいるので遠くまで良く見える。
赤城がいる場所は比較的『黒』の支部に近い場所だ。奥には工場のようなものが見える。反対側は先頭を行っている人間が多く確認できる。また、『黒』の支部から度々人が出てくるのも見えた。
「まさか元日に攻めてくるとは思わなかったけど、それだけで落とせるほど僕たちは弱くないよ!!」
2人はお互いに距離を取る。
「さて、どうするかな。そうだ、こうしよう」
軽く呟いて、少年は両腕を広げた。すると、彼を軸にして周りの風が回転し始める。赤城が警戒して構えると、その渦竜巻となり、真上に伸びて赤城を飲みこむように襲いかかってくる。
「刻め」
赤城を飲み込んだ竜巻は収縮し、その風圧で彼の服を切り裂いていく。当然、露出している顔や手などは直接傷を負わされる。
「くそっ、身動きがとれない!!」
動こうにも、風圧がそれを許さない。回りの状況も見えず、あの少年が今何をしているのかが分からない。
(まずいぞ、今別の攻撃が来たら……)
目を開けることすらできない状況では、避けることができない。
(神原ならすぐに能力を無効化するんだろうが……一か八か、やってみるか!)
恐る恐る目を開けるが、風が目に入ってきて反射的に閉じてしまう。だが、その一瞬で赤城は必要な情報を手に入れた。
それは、風の向きだ。
「これで、どうだぁぁぁぁぁぁああああああああああああああ!!」
赤城は炎を纏いながら風の向きとは反対の方向に自分の体を回転させた。無理矢理な行動であり、風の流れに逆らう格好であるため、彼の体にはさらに傷が増えていく。
だが、彼が回転し始めたことで彼を軸とする炎の渦が出来上がり、竜巻が反対に回るそれとぶつかることで相殺された。
ようやく目を開け、竜巻が消えたことを確認する。赤城は回転を止め、少年の姿を探した。
だが、どこを見ても少年の姿は無い。
「どこに――!?」
上空。
赤城の斜め上に少年は浮かんでいた。彼の両足の下にはかなり小さな渦が出来ている。それによって彼は浮かんでいるようだ。
「惜しいなぁ。もう少しでトドメの一撃まで行けたのに」
「へっ、俺も能力者対決自体は慣れてるからな」
そうは言いながらも、赤城は焦っていた。思っていた以上に受けたダメージが大きい。彼の服はボロボロで、所々血が滲んでいる。顔や手からも出血しており、無理に動かした両腕は動かすたびに激痛が走る。
(最初からこんなんで大丈夫かよ……長期戦には持ち込めない。一気に決めるしかないな)
「あれ、案外もうトドメ行ける感じかな? じゃあ、もう殺すね」
少年は両手を広げた。赤城はさきほどの竜巻を警戒したが、少年は彼の予想の上をいく。
赤城を囲むようにして4つの竜巻が出来上がったのだ。それらは赤城の周りを時計回りに動きながら段々と近づいてくる。
そして――