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第二章  ソノ覚悟ハアルカ(9)

 赤城たちは激戦区である『黒』の支部周辺に出てきた。

 脇道から出たような格好なので、敵はおろか味方さえもこちらの存在に気付いていない。皆が目の前の敵との戦いに集中していることも原因の1つだろう。


「死なないでくださいね、お二方。では、ご武運を」


 そう言って、狩矢は苦戦しているメンバーの所へと向かった。

 しかし、赤城と氷川は何をしていいのか分からず、轟音響く戦場で挙動不審のまま立っていた。


「どうすれば、いいんだ?」

「多分、味方の援護に回るのが一番かと……っ!!」


 言いかけた氷川が突然赤城にタックルをした。予想外の出来事に赤城は踏ん張れず、氷川と共に地面に倒れた。


「な、何すんだ!?」

「あれですよ、あれ!!」


 氷川は赤城の頭の先を指差した。そこにはレンガの壁があり、銃弾がめり込んだであろう跡がついていた。


「いやあ、気付かれたか。にしてもこんな所でオロオロしてるってことは、戦場が初めてな人たちかな?」


 ハスキーな声がする方を見ると、そこには片手で銃を構えている少年がいた。おかっぱ頭の彼は、恐らく赤城よりも年下だろう。


「だからって手加減はしないよ」


 その指が、再び銃のトリガーにかかる。彼は、赤城たちが立ち上がるのを待つつもりはないらしい。

 だから、赤城は氷川の頭を左手で自分の胸に近づけて、右手で炎の壁を作った。直後に乾いた音が鳴り、放たれた銃弾は炎の壁に当たって焼失した。


「ちょ、ほ、ほむほむ、焔さん!?」


 氷川は顔を真っ赤にして足をジタバタとさせている。赤城としても恥ずかしい状況であるのだが、あの少年の様子を見ていると、そんなことを気にしている暇はなさそうだ。


「氷川ちゃ……とにかく急いで立て! このままじゃ戦えない!!」

「今ちゃん付けしましたね!? もう!!」


 文句を言いながら、氷川はすぐに立ち上がった。その直後、炎の壁が消し飛んだ。


「――マジ、かよ!!」


 赤城は後ろに下がりながら立ち上がる。


「炎の消し飛ばされ方からして、あいつは風の能力者だ。ああ畜生、俺への当てつけかよ!」

「このハンドガンだけで終わらせるつもりだったけど、仕方ないね。じゃあ、いくよ」


 少年の足下に風の渦が出現した。そして彼はそれを蹴り上げる。


「お兄さんたちは耐えられるかな?」


 彼の顔の位置にまで上がってきた渦は段々と大きくなり、その回転速度も上がっていく。少年の顔ほどの大きさになった瞬間、彼は渦を殴った。


 殴り飛ばされた渦はさらに勢いを増し、赤城に迫る。


「……舐めんなよ、クソガキ」


 赤城は大きな炎の玉を一瞬で複数個作り出すと、それを全て迫ってくる渦にぶつけた。爆音と共に強風が吹き荒れ、渦は消えた。


 両腕で顔を覆っていた赤城は、同じく顔を覆っていた少年に対してこう告げた。


「今度はこっちの番だ」

「へえ、結構やるんだね。でも……」


 赤城は両手に炎を纏うと、少年に向かって一直線に走り出した。だが、少年は何の攻撃もしてこない。それどころか、不敵な笑みさえ浮かべている。

 怪訝な顔をしながらも、赤城は少年の懐に潜り込んだ。


(こいつ、一体何を考えて――!!)


 そこで気がついた。

 そう、赤城は氷川のことを全く考えていなかったのだ。赤城が突進したということは、現在氷川は1人。つまり――


「しまった!!」

「注意力がないね。それじゃあ、共倒れだよ」


 慌てて氷川の方を振り向くと、彼女に向かって走っていく影が見えた。そして、それもまた間違った判断だ。

 注意力がない、というのは氷川のことだけではない。


 直後、赤城の後頭部に鈍痛が走った。


「がっ!?」


 倒れながら後ろを向くと、銃を構えている少年がいた。赤城は銃のグリップで殴られたのだ。


「2人とも、さよならだ」


 だが、次に響いた音は実に原始的な、まるで誰かが殴られたかのような音であった。


「え……?」


 ずっと余裕の表情を浮かべていた少年が、初めて驚いた顔をした。そのおかげで、彼が銃のトリガーを引くことはなかった。


 両手をついてすぐに立ち上がり、赤城は音のしたほうを向いた。そこには、拳を振りぬいたような格好の氷川と、地面に倒れている中学生くらいの少女がいた。


「ひ……かわちゃん?」

「焔さんはご自分の戦いに集中してください。私だって、普通に戦えますから」


「これは驚いた。まあいいや、こうなったら全力で殺すよ」


 赤城は氷川の顔を見て頷き、得意気に話す少年のほうを向く。そして、2人の拳がぶつかった。

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