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第二章  ソノ覚悟ハアルカ(8)

 赤城、氷川、狩矢の3人はまだ昼間だというのに建物が密集しているせいで暗くなっている路地を進んでいた。


 ここは本隊が通る道らしい。作戦において本隊は、陽動部隊が戦っている最中に敵に気付かれずに『黒』の支部へ侵入することになっている。よって、諜報部隊が確保した本隊用の道には敵がいない。


「ここ、俺たちが通ったらバレるんじゃないか?」


 赤城は狩矢の後ろを走りながら尋ねる。狩矢は後ろを振り返らず、あくまで目的地に進みながら、


「そう簡単にはバレませんよ。それに、バレたとしても別の道に切り替えればいいのです。諜報部隊を舐めてもらっては困りますよ」


 常に代替案を用意しておく。それが賢い戦術家である。

 10分ほど走ると、幅の広い曲がり角が見えてきた。今まで通っていた、所謂裏道ではない。ここを曲がれば大通りに出るであろうことが分かる。


「止まってください。少し息を整えましょう」


 狩矢は相変わらず清清しい表情をしていたが、赤城と氷川は少し息を切らしていた。


「僕としては、そこまで速く走った覚えはないのですが……」


 狩矢は不思議そうに首を傾げる。どうやらこの男、本気でそう思っているらしい。


「はっ、はっ……こりゃ、終夜のことを悪く言えなくなっちまったな」

「……あの、何か聞こえませんか?」


 膝に手をつき、深呼吸を繰り返しながら氷川は言った。よく耳を澄ますと、確かに怒号や金属が擦れあう音などが聞こえている。


「もう、始まってるのか。ふー、緊張してきた」

「焔さん、葵さん。お二方なら大丈夫です。では、最後にもう一度確認です」


 狩矢は何とか息を整えた赤城と氷川に対して、真剣な表情で問う。


「ここからは、人の死体を多く見ることになるでしょう。味方もまた然り。そして何より、自らの手で人を殺さなければいけません。その覚悟はありますか?」


 赤城は逡巡した。その一瞬の間に、様々な感情が体を駆け巡る。

 『裏』で人を殺したとしても、犯罪にはならない。加えて、敵を殺さなければ自分が死ぬ。ならば、やはり躊躇わずに敵を殺せばいい。


 だが、あのセーラー服の少女みたいな敵だったら? 彼女とは分かり合えてたはずだ。もしかしたら、あのまま仲間になった可能性だって否定できない。黒神と朝影がそうだったように。


 いや、もう1つの可能性を忘れていないか? そう、あの時赤城が狩矢の方に向かい、彼女に対して背を向けていたら。もしかしたら、彼女は懐にあった銃を抜いたかもしれない。


 可能性はいくらでも存在する。それを全て否定するのは不可能だ。

 だから、赤城は後者であったと考えることにした。あそこで狩矢があの少女を撃っていなければ、自分が死んでいたのだと。


(とにかく今はこれでいい。細かいことは終わった後だ!!)


 元来、赤城焔という人物は物事の細部を考えるのが苦手である。様々な可能性を考えた上で、一番良い方法を取るというどこぞの『英雄』がやっているような手段は出来ないのだ。


 だからこそ、彼は神原との戦いの時に相手の能力の弱点を、体当たりで見つけ出した。それが彼の性格なのだ。


「俺は、大丈夫だ。覚悟は出来た」

「……私も出来ました」

「いいでしょう。それでは、行きますよ」


 今度は笑顔を見せずに、真剣な表情のまま狩矢はそう言った。そして、彼は白いシールを自分の手の甲に貼った。白い制服であるため、胸などに貼ると逆に見づらいと判断したのだろう。


 狩矢が曲がり角を曲がったのを見て、2人も彼の後を追う。

 こうして、『黒』の支部襲撃作戦が始まった。

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