第二章 ソノ覚悟ハアルカ(7)
赤城と氷川は他の陽動員よりも少し遅く出発することになった。というのも、本部を出ようとしたところを、成宮が引きとめたからだ。
「君たちは諜報員の支援を受ける、と言っただろう。というわけで、彼が君たちを誘導する」
成宮が横に移動すると、彼の後ろに隠れていた人物が姿を現した。
そのショートの赤髪の人物を、赤城は知っている。爽やかな笑顔が似合う、赤城と同い年の少年。
「まあ、なんとなく予想はしてたけどさ。真かよ……」
「おや、お気に召しませんでしたか? それは残念」
狩矢真。赤城に『裏』の案内をしてくれた人物だ。
「焔さん、もう頭は冷えましたか?」
「ああ、正直まだ納得は出来てないが、真が間違っていないてことは分かったよ。さっきは悪かった」
赤城の謝罪に、狩矢は少し戸惑っているようだった。また、狩矢は氷川とも面識があるらしく、笑顔のまま彼女の方にも言葉をかける。
「よかったですね葵さん。ようやく待ち人が――」
「わぁぁぁ、それは言っちゃダメ!! ってか、どうしてそのことを知ってるんですか!?」
「諜報部隊ですから。僕に隠し事は出来ませんよ」
そこで、成宮が口を開いた。
「では、そろそろ行ってもらおうか。君たちは普通の陽動部隊とは少し違う道を進んでもらう。真の誘導に従ってくれ。そして恐らく、君たちが『黒』の支部に近づいた時には既に戦闘が始まっているだろう。敵もそうだが、味方の屍が転がっていることも覚悟しておいてくれ」
それから、と言って成宮はパーカーのポケットから掌ほどの大きさの白い円形のシールを取り出した。
「これを胸や肩など、見えやすい場所に貼っておいてくれ。それが味方の識別になる。『黒』に贋作を作られないよう、毎回形を変えて、しかも出撃時にしか渡さないようにしてるんだ。だからこれを付けてる連中は味方だと断定してくれていい。万が一これを付けている奴が攻撃してきたら、敵だと思ってくれ。剥ぎ取られてる可能性だけは否定できないからな」
そのシールを、赤城は肩に、氷川は胸に貼った。粘着式ではなく吸着式のものであるらしく、多少引っ張った程度では取れない。これなら、簡単に剥ぎ取られることもないだろう。可能性こそ否定できないが、成宮が言うように味方と断定するには十分な証拠だ。
「さて、行ってこい。君たちが無事生き残ることを願っているよ」
準備は整った。
赤城にとっても、氷川にとっても始めての作戦が始まる。
狩矢に促されて、2人は外へ出る。時間は13:34。建物の影がより鮮明に映る中を、彼らは駆けていく。その姿が見えなくなるまで、成宮は本部の入り口に立っていた。