第二章 ソノ覚悟ハアルカ(5)
2階に上がると、十数名の人間が椅子に座っていた。2人1組で座っていたため、赤城と氷川も隣同士で座る。
「さて、新年早々で申し訳ないが、君たちは作戦に参加してもらう」
壇上に立った成宮はあらかじめホワイトボードに書いてあった図を指差しながら話す。
「君たちも知ってると思うが、ホープには『黒』の支部がある。これがあるせいでカントリーにある『黒』の本部への侵攻が出来ない。そこで、そろそろこの支部を制圧しておきたい。言っておくが、これは重要な作戦だ。死も覚悟してくれ」
死を覚悟する。成宮は特に顔色も変えずにそう言ったが、この場にいる全員がそれを重く受け止めただろう。
場の空気が更に緊張感を増す。
「では、概要を説明する。今回はいくつかの分隊で作戦を展開する。君たちの役目は陽動だ。私が率いる本隊の侵入をカモフラージュする……といったところか。陽動とはいえ重要な役目だ。気を引き締めて望んでくれ」
その後、成宮は進むルートをホワイトボードを使って説明した。
赤城たちが進む道は、簡単に言えば正面突破だ。彼らが『黒』と戦っている間に本隊が侵入し、支部の中枢を破壊する。
赤城はそこまでの説明を聞いて、どうして『裏』に来たばかりの自分がいきなり重要な作戦に参加させられたのかに気付いた。
(要するに……俺たちは使い捨てってことか)
陽動、と言えば聞こえはいいがその仕事は本隊進入まで命をかけて戦うことだ。陽動が死んだところで、本隊には殆ど影響がない。つまり、ここに集められたのはおおよそ死んでも戦況に影響のない人間、ということになる。
「緊張、しますね」
氷川が横目で赤城の方を見ながら小声で話しかけてくる。
「……確かにな。来たばっかりでいきなり戦場っていうのは……」
「覚悟が必要かもしれません」
一通りの説明を終えると、成宮は全員に向かってこう言った。
「君たちは自分を捨てゴマだと考えているかもしれない。残念ながら、私はそれを払拭できるほどの言葉を持ち合わせていない。だから、これだけは伝えておく。君たちと再び会えることを願っている」
そこで一旦解散となった。作戦開始まで少し時間があると伝えられ、メンバーたちは準備のために自室に戻っていった。
赤城と氷川も一旦自室に戻ろうとしたとき、成宮が彼らを呼び止めた。
「君たちはまだパートナーになったばかりだったね。こればかりは謝罪しておく。特例ではあるが、君たちだけは諜報員がサポートするよ」
今回の作戦では、事前に情報を集め、進入経路を確保しておく諜報部隊と陽動部隊、そして本隊の3つの分隊がある。
中でも諜報部隊は経路確保後の役目がないため、他の2分隊が進入した後は帰還する予定らしい。なので、パートナーとなって1日も経っていない赤城たちのサポートに人員を回せるのだ。
とはいえ、成宮の言う通りこれは特例である。分隊がそれぞれの役目を担っている以上、本来は役目以上のことはさせないのだから。
「まあ、さっきは色々と言ったが、今回行くのはあくまでも支部だ。そこまでの実力者はいない。いたとしても、そちらは私たち本隊が相手する。だから、君たちは自分の力を最大限発揮してくれ。そうすれば、死ぬことはない」
そう言って、成宮は足早に1階へと下りて行った。赤城と氷川はお互い顔を合わせ、自室へと戻った。