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第二章  ソノ覚悟ハアルカ(3)

「というわけで、君たちは今後パートナー同士なんだが……」


 赤城と氷川、そして成宮は1階にあるメンバーようの部屋にいた。

 部屋とはいえ、置いてあるものは少ない。ベッドや洗面器、テーブルなど生活に最低限必要なものだけだ。


 『白』の本部には、メンバー用の部屋がいくつも用意されている。2人1組で生活することになっており、諜報員以外は殆どの人間に部屋がある。諜報員はそもそも本部にいることが少ないため、部屋は無い。


 赤城たちのように男女で組むことも珍しくはないが、あのようなファーストコンタクトをしたメンバーは珍しいだろう。


 現在、テーブルを挟んで赤城と氷川が向かい合うように座り、成宮が入り口付近に立っている状況だ。だが、なんというか、気まずい空気が流れているのである。


「えっと、2人とも。どうしてそんなに無口なのだい? 私困っちゃうのだけど」

「元はといえばあなたのせいですよこのド天然男」


「あれ、私リーダーなのだけど……ま、まあとにかくだ。仲良くやってくれよ、頼むから。君たちにミッションを振るのも時間の問題だからな」


 成宮はそういい残して逃げるように部屋を出て行った。


「…………」


 再び、沈黙が流れた。


「あ、赤城さん。その、本当にすいませんでした。でも、あなたの方にも非があるわけですから、お相子ということで」

「いや、流石に俺もやりすぎたと思う。悪かった」

「お、お茶淹れますねお茶」


 氷川は立ち上がって台所に向かう。台所とは言っても、十分な料理が出来るだけのスペースはない。せいぜいコンロが1口ある程度だ。


(よ、よくよく考えてみたら部屋で異性と2人きりなんて初めてです……いやいや、でもこれもミッションの一貫というか、ようやく出来たパートナーですし、うむむ)


 台所で唸っている氷川を見て、赤城は思わず笑ってしまった。からかう気は一切なく、本当に自然に。


「ちょ、何笑ってるんですか!?」

「いや、何となく面白くてな。ようやく、現実に戻ってこれたような気がする」


「……私も、最初はそうでしたよ。目の前で人が死んで、何がなんだか分からなくなりました。でも、リーダーの、成宮さんのおかげでここまで来れたんです。あの通りド天然ですが、やぱり頼りになる人ですよ」


 火にかけたヤカンの様子を見ながら、氷川はそう言った。


「赤城さんはどうして『裏』に?」

「親友をサポートするためだ。氷川ちゃんはどうなんだ?」


「ちゃん付けは止めていただけるとありがたいのですが。くすぐったいです。私も、親友のためです。数年前、親友が行方不明になって、少しでも情報を得るためにここに」


 語る氷川の表情はとても寂しそうだった。


「その子の名前は?」

「……北条重(ほうじょうかさね)。写真がありますので、お見せします。パートナーである以上、目的も共有しておきたいので」


 氷川はヤカンを取り、お茶を淹れた。そして湯のみをテーブルに置くと、携帯型のデバイスを取り出した。その画面に、1枚の写真を表示する。


 それは、中学生の時の写真らしい。特に顔つきの変わらない、どこかの制服を着た氷川の横にロングストレートの茶髪の少女が笑顔で映っている。彼女も整った顔立ちをしており、氷川よりも様々な場所が(特に胸の辺り)大人びている。


「これが、その子なのか」

「ええ、能力が発現した数日後に行方不明になりました。残されていたのは、『裏』に行くとだけ書かれたメモだけです」


「『裏』には警察は関与しない。だから、氷川ちゃん自身がってことか」

「だからちゃんづけは……まあ、そういうことです。重を見つけるまで、私は死ぬわけにはいきません。そして、ここから逃げ出すわけにもいきません」


 その決意は固いようだ。彼女が今も『裏』に残っていることが、それを示している。

 『裏』には様々な目的を持った人間がいる。中には、『表』では絶対に達成できないものを持った人間も。だからこそ警察は『裏』には干渉しない。


 『裏』とは、あらゆる手段を用いて自分の目的を達成させることが許された場という側面も持っているのだ。


「そういえば、赤城さんの親友さんのお名前はなんですか?」

「よく聞いてくれた、氷川ちゃん。いいかい氷川ちゃん、その名前はね」

「もうわざと言ってますよね!? いい加減にしてください!!」


「なんだよ可愛いからいいじゃん、氷川ちゃん」

「か、かわっ!? い、いいえ、許しません」

「ひかわん」


「何ですかそれ、からかってるんですか! いや絶対にからかってますよね!?」

「黒神終夜」

「誰ですかそれ! 私は氷川です、ひ・か・わ!!」


「いや、俺の親友の名前だけど……」

「……どうしてあの流れで言っちゃうんですかもぉぉぉおおおおおおおおお!!」


 悔しそうな表情をしながら顔を両手をテーブルに何度も叩きつける氷川を見て、赤城は温かい気持ちになった。なんというかこの少女、赤城にとっては癒しなのである。


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