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第一章  初心者ノタメノ説明書(10)

 セーラー服の少女は天を仰ぎながら、酸素を求める金魚のように口を動かしていた。


「何が起きたのか分からないって感じだな。可愛いから教えてやるよ」


 振り上げた拳を戻しながら、赤城は言った。


陽炎(かげろう)って知ってるか? それを利用したんだよ」


 真夏の天気予報で道路が映ると、その奥の景色が歪んでいるように見えることがある。それが陽炎だ。大気や地面が熱されることで起こる現象であり、それが原因で密度の異なる空気が入り混じり、そこを通る光が屈折するものだ。そのため、周辺の景色が歪んで見えるのである。


 赤城が作った炎の壁は空気を熱した。その影響で、少女の場所では赤城の位置は本来の位置からズレて見えていたのだ。

 だから、真っ直ぐに放った空気の槍が当たらなかった。もうその時には、赤城の体は横に動いていたのだから。


「……俺も、あの戦いから少しは成長したんだよ。つっても、お前にゃ分かんない話か」


 赤城は爽やかな笑顔を浮かべてみせた。そこで何となく狩矢の顔が脳裏を過ぎり、少し不快な気持ちになる。

 対して、少女は恐怖の表情を浮かべていた。先ほどまでの得意気な表情はもう何処にも無い。まるで、これから殺されるかのような顔だ。


「おい、何を怖がってるんだ?」

「……あ、ひゃ、って。ころ、ふ、でひょ」


 顎の骨が折れたためか、彼女は苦悶しながら言葉を繋いだ。


「殺す……って言ったのか? いや、何もそこまではしねぇよ。だって、もう勝負はついたんだし」


 その言葉を聞いた少女は、驚いたように目を大きく見開いた。そして、安堵の表情を浮かべる。


「色んな表情を浮かべるんだな。ちなみに、さっきからパンツ丸見えだぞ」


 少女のスカートは宙を舞った際に翻り、めくれた形のまま少女の体に押さえつけられた。よって、現在少女の下半身にあるピンク色のハッピーマテリアルが丸見えなのだ。

 それに気づいた少女は顔を熟れたりんごのように真っ赤にし、スカートを押さえながら赤城を睨んだ。


「ははは、本当、色んな表情をする奴だな」

「う、っひゃい!」


 2人は笑っていた。たとえ敵でも、分かり合える。黒神が朝影と分かり合えたように、自分もこの少女と分かり合える。赤城はそう思っていた。


 少しして、赤城の視線の先に狩矢の姿が見えた。彼は右手で何かを引きずっているようで、爽やかな笑顔を浮かべながらも汗を垂らしている。


「そちらも勝ちましたか。まあ、焔さんの実力なら当然でしょう」


 狩矢の体が朝日に照らされて完全に見えた時、赤城は絶句した。




 彼の白い制服は真っ赤に染まり、その右手にはそれ以上に真っ赤に染まって、ピクリとも動かない男が引きずられていたのだ。

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