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第一章  初心者ノタメノ説明書(9)

 狩矢が言った通り、それ以上銃声が響くことは無かった。静けさが逆に不気味なくらいだ。


「敵が何人かは予測できませんが、複数であることは確実です。となると、僕たちを挟み撃ちにするでしょうね」

「ど、どうするんだよ。俺はまだこの辺の道の構造は知らないぞ」


「……焔さん、落ち着いてください。戦法こそ初めて見るものかもしれませんが、ここからはただの能力者同士の戦いです。ランク戦と同じものですよ」


 それに、と狩矢は付け加える。


「焔さんは『楽園解放』という組織のリーダーと戦ったのでしょう? それに比べれば簡単な戦闘ですよ」


 そう、神原のようなチートじみた能力を持つ人間などそうそういない。いたとしても、それほどの実力者はこんな姑息な手は使ってこないだろう。

 今まで能力者として戦ってきた赤城にとって、『普通の』戦闘であればそこまで恐れるものではない。


「そう、だよな。ありがとう、真」

「それでは、お互い背中を守りあいましょうか。死なないでくださいね」


 そう言って、2人は背中を合わせた。狩矢はさっきまでいた場所の方を、赤城はその反対側を向いている。逃げ込んだ路地が一本道である以上、どちらかの方向から敵が来るのは間違いない。


 次の瞬間、両方向から攻撃が来た。

 赤城の方向からは突風が、狩矢の方からは小柄な男が突進してきた。


「ぐっ、風の能力者か! だったら近づかないと……」


 そう考えた時には既に後ろで衝突音が聞こえていた。格闘戦をやっているのだろうか。気にはなったが、後ろを気にしている余裕は無い。

 赤城は意を決して走り出す。


(もう一度来るか……?)


 初撃が遠距離攻撃であり、赤城が走り出したあとに姿を見せなかったということは、敵はかなり離れた場所にいる可能性が高い。


(もう1つ厄介なのは、このタイプは近づきすぎてもダメってことだ)


 遠距離攻撃は、それを近距離で受けると当然威力が増す。遠距離が得意な相手だから、とりあえず近距離に持っていけばいいというものではない。


 周囲に視線を向けながら、赤城は路地を走っていく。

 すると、通り過ぎた建物の窓ガラスが割れ、そこから1人の少女が回転しながら落ちてきた。


「おお!? 案外近くにいたのか!」


 赤城は急ブレーキを踏み、体の向きを入れ替える。

 その瞬間、風が槍のような形になって飛んできた。


「う、おおぉぉぉおおおおおおおお!?」


 何とか転がるようにして回避したが、その槍が当たった壁は粉々に砕けてしまった。


「わざわざ俺の前に出てきたって事は、近距離が得意な人か?」


 セーラー服を着たショートヘアの少女は舌打ちをしながら、


「やっぱり不意打ちは苦手だね。ウチはこうやって向かい合うほうがいい」

「……この状況で美少女が襲ってくるのかよ。出来れば、普通にお会いしたかったぜ」

「なに言ってんのあんた。まあいいわ、ウチも戦功をあげないといけないし」


 少女が右手を赤城に向ける。


「風よ、舞え!!」


 突風が吹き荒れ、赤城は思わず腕で顔を覆う。


「くそ、体が動かな――!?」


 次の瞬間、突風が消え、無数の小さな針のようなものが赤城の体に突き刺さった。腕で覆っていたため顔には当たらなかったものの、ほぼ全身から少量の血がでている。


「針が、無い?」

「当たり前でしょ、風なんだから。あんた、案外弱いみたいね。ラッキー」


 その台詞に、赤城は眉をひそめた。そして、少女はもう一度突風を吹かせる。


「さあ、ウチの養分となりな!!」


 だが、今度は赤城は顔を覆わなかった。目を細めながらも、両手に炎の玉を作っていた。突風に揺られ、その形は安定しない。


「炎の能力者か。風前の灯火にしてあげるわ」


 突風が再び止まり、空気で出来た小さな針が赤城に向かって発射される。

 だが。


「俺も、そこまで馬鹿じゃないんでね」


 壁があった。赤城が両手に宿していた炎の玉を地面に打ちつけた瞬間、そこから炎の壁が出現したのだ。


「な――!?」

「その針を発射するとき、突風は止む。恐らく、2つのことを同時にやるのが苦手なんだろうな。一瞬でも動ければ十分だ。風前の灯火? 馬鹿言うな、俺の能力は『永遠の炎(エターナルフレイム)』。消えることはねぇよ」


 直後、炎の壁から赤城が現れた。その両手には燃え盛る炎を纏っている。突然の出来事に少女は逡巡する。


「そこまで経験を積んでないのか? その躊躇いが、命取りだぞ」


 赤城の台詞に、少女は風の槍を慌てて作る。そしてそれを突進してくる赤城に対して投げた。その槍は当たったはずだった。

 だが、槍が赤城に当たった瞬間、彼の体が消えてしまったのだ。


「え」


 気付いたら、彼は少女の懐に潜り込んでいた。そして、握り締められた右拳が少女の顎を砕く。


「が、ぁぁぁぁああああああああああああ!?」


 強烈なアッパーを受けた少女の体は宙を舞い、為す術も無く地面へと倒れてしまった。

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