第一章 初心者ノタメノ説明書(6)
翌日、一般的には元日であるが、赤城にその意識は無かった。というのも起床後、狩矢が道案内をすると言い出したので、そちらに着いていくことにしたため正月という概念そのものが抜け落ちていたのだ。
「にしても、道案内ってどういうことだ? 補給所も一定じゃないんだし、主要なのって本部くらいだろ?」
「まあ、いいじゃないですか。それに習うより慣れろ、デバイスの新機能を体験していただくのもいいかと思いまして」
昨夜、赤城のデバイスにはいくつかの機能が加わった。もちろんそれは『裏』でしか意味を成さないものだが、それ故に試す機会もあまり無いだろう。それを考慮して、狩矢は道案内をすると言い出したのだ。
「あと、焔さんの素も見てみたいですし」
狩矢は笑顔でそう言った。確かに赤城は本来ここまで真面目な人間ではない。だが、そのことはまだ『裏』では知られていないはずだ。
「……まあ、あれが素じゃないってことは否定しないけどさ。狩矢ってもしかしてストーカーか?」
引き気味に言うと、狩矢は顎に手を当てた。何か考えているのだろうか。
思えば、彼は昨夜こう言っていた。『僕は焔さんのことを知ってますが……』と。
(そりゃ、一応『裏』に踏み込む前に専用のサイトにデバイスを接続したけどさ。だからって俺の性格まで分かるわけじゃないはずなんだが)
そう思うとちょっとした恐怖で体が震えた。
「ストーカー、という方がまだ現実味がありますね。僕は諜報に長けている人間ですので」
「そう言えば、狩矢の能力ってどんなのなんだ?」
「真、でいいですよ焔さん。僕の能力は……追々。それよりも早く素の焔さんを見せてくださいよ」
狩矢の目が何故か輝いていた。いつもはヘラヘラしている赤城だが、こうなると素を出しづらい。
「そうだな、超可愛い女の子が現れたら素に戻れる気がする」
「…………」
「おい、笑顔で引いてんじゃねぇよ!!」
実はもう素に戻りかけているのだが、赤城はそのことに気付いていなかった。