第一章 初心者ノタメノ説明書(5)
「1つだけ、聞いておきたいことがある」
赤城は背筋を伸ばして、真剣な表情で問う。
「『白』……いや、あんたはどうしてエデンの実験を破壊したいんだ?」
簡単なようで、『裏』の根幹に関わる事である。それに、赤城が『裏』に踏み込むきっかけとなった『楽園解放』の一件にもこれが関わっていた。
「それを聞いてくる人間は殆どいないな。君の覚悟は私が考えていたよりも強いみたいだな。質問の答えだが、多分君が想像している通り……そう、第四次大戦の阻止だ。もっと言えば、そんな人殺しのイベントのための実験で苦しんでいる者たちの解放、かな」
少し自信なさげに成宮が答えたのが気になったが、赤城はそれで納得することにした。というのも、やはり赤城もエデンの全てを知っているわけではない。寧ろ、まだ初心者だ。基本的な思想さえ同じなら、信頼できるだろう。
「ああそうだ、この後君のデバイスに『白』特製の設定を付けるがその前に。『黒』のリーダーの名前を教えておこう。闇野氷河、私とは特別因縁の深い人物だ」
そう告げて、成宮は立ち上がった。そして赤城に着いてくるよう促す。狩矢はやることがあるのか、パソコンのある机に移動して、何かの作業を始めた。
彼の後に続いて、さきほどの階段を降りる。やはりギシギシという嫌な音が響くが、成宮は気にしていないようだった。
1階の奥のほうに進むと、横開きの大きな二枚扉の部屋があった。こちらも老朽化していて成宮を手伝って2人で片方ずつ扉を開けると、比喩ではなく本当にゴゴゴゴッという音がした。
「ここが、武器の製造とかをしている場所だ。デバイスの点検整備もここでやる。さて、君のデバイスを借りてもいいかな? あ、大丈夫、ネットの閲覧履歴とかは見ないから」
「そういうことは言わないほうがいいと思う……」
赤城は肩をすくめながら自分の携帯型デバイスを渡した。すると成宮は画面すら開かずに、白いコードを接続する。
「今、データを送信してる。これで補給所の場所が分かるようになる。それから私の連絡先も入るようになってる。ああ、後で狩矢とも連絡先を交換しておくといい。彼は友達こそいないものの、優秀な人物だからね」
今の言葉の中に爆弾発言があった気がするが、赤城は気付かないフリをしてただ相槌を打つだけに留めておいた。狩矢からすればあの爽やかな笑顔が崩れるほどの暴露であると思うが、それをサラッと言ってしまう辺り、成宮に完全な信頼を置いていいのか不安になる。
数分後、デバイスを返してもらった赤城は成宮に本部に泊まることを勧められた。その際に成宮が放った(恐らく彼は無意識)一言を、赤城は絶対に忘れないだろう。
「もう夜も遅いし、というかそもそもどうして大晦日のあんな時間に来たんだい? 君も狩矢と同類かい?」
さすがの赤城も拳を握り締めそうになった。