第一章 初心者ノタメノ説明書(4)
「『裏』の領域では……と言ったが、私の言いたいことは分かるか?」
成宮はホワイトボードに『表』と『裏』の文字を書く。
「焔さん、僕が言ったこと覚えてますか?」
考え込む赤城に、狩矢が助け舟を出した。階段を上がる前、彼は赤城の質問に対してなんと答えていたか。
「そうか、『表』にいれば攻撃されないってことか」
「正解だ。暗黙のルール、というよりも単に『表』で銃器を使えば警察に捕まるからだな。たとえ『白』と『黒』のメンバーがすれ違ったとしても、そこが『表』ならば手を出さない」
だから、『表』にある自宅に帰る人間がいるのだ。赤城が持っていたイメージはは、1度『裏』に属したものは永遠に『表』へと戻ることは出来ないというものであった。それと正反対の実態に、赤城は少し安堵感を覚えた。
「君の親友に会いに行くことも可能だ。ああ、学校にはある程度行っというたほうが良いぞ。『裏』に来たとはいえ、『表』の人間でもあるんだからな」
それも、『表』では攻撃されない理由の1つだ。
「ここまでで聞きたいことはあるか?」
「いや、今のところは……」
「そうか。それじゃあ、戦略面の話に入ろうか」
そう言うと、成宮は今までホワイトボードに書いていた文字を全て消した。
「さっきも言ったが、私たちの戦いに銃器は必須だ。後で護身用のハンドガンは渡すが……ところで、銃器に必要な物はなんだと思う?」
「火薬、とかか?」
「君は頭がいいな。火薬や予備の弾だな。それを四六時中持ち歩くわけにもいかないだろう。そこで、『裏』のところどころに補給所が設置してある。後でデバイスに表示されるよう設定するよ」
ところで、と成宮は言葉を継ぐ。
「補給所が敵にバレたらどうすると思う?」
戦略ゲームなどでは、補給所が襲われた場合そこの防衛に戦力を割くのが定石だ。補給所が占拠されてしまうと、自軍が劣勢になってしまう。
「『白』は、補給所がバレた場合、速やかにそれを爆破する。放棄というより隠滅だろうね」
補給所となる建物に大きさは関係ない。また、1度爆破した場所をもう一度補給所として使うこともある。つまり、補給所を1つ破壊したからといって直ちに劣勢に置かれるわけではないのだ。
「バレた補給所はデバイス上の表示が消えるようになっている。逆に言えば、デバイスに表示されている補給所はまだバレていない場所だということだ」
少し考えてみると、いくら補給所の場所がバレていないからといって安易に入るべきではないのだろう。
いつでも狙撃される可能性があるということは、常に監視されていることと同義である。
(つーか、激戦地では補給所なんてすぐにバレるんじゃ……)
「激戦地の補給所はたとえ勝利したとしても爆破する。というより、その前に全ての物資を使い切っている場合が多いから爆破しても特に影響はないさ」
「なんか心を読まれた気がするんだが……」
「ちなみに、基本的な戦略は『黒』も同じさ。偶々入った建物が『黒』の補給所だった、なんてこともありえる。その時はすぐに報告してくれ。爆破される前にやるべきことがあるからな」
『裏』は一般人が住む場所ではない。しかし、建物は『表』と同じくらいたくさんあるようだ。だからこそこのような戦略が成り立つのである。
「基礎知識はこのくらいだ。他に聞きたいことはあるかい?」