第一章 初心者ノタメノ説明書(3)
「とりあえず、『裏』の基本的な話をしておこうか」
成宮は座ったまま、後ろに設置されているホワイトボードに文字を書き始めた。
「これは常識だが、『裏』は『白』と『黒』の二大勢力の抗争の場だ。どうして抗争してるか分かるか?」
ホワイトボードには距離を離して『白』と『黒』という文字が書かれている。その2つを繋ぐようにして、成宮はギザギザの線を引いた。
それを見ながら赤城は答える。
「実験破壊派と実験継続派……要するにエデンの実験を巡る抗争だな」
「その通り。私たち『白』が前者、『黒』が後者だ。ちなみにだが、君はどうして実験破壊派になったんだ?」
「……多分、あんたたちほど深刻な理由じゃない。強いて言えば、親友を助けるため……だ」
赤城が『裏』に踏み込むことを決めたきっかけは、神原との一件である。そこで親友である黒神や、『楽園解放』のメンバーであった朝影光からエデンが置かれている状況を聞いた。
そこで、黒神をサポートするために『裏』に行くことに決めたのだ。だが、これは黒神から頼まれたわけではない。彼が自発的に決めたことだ。故に、『裏』に踏み込む理由としては軽いと言われても仕方ないだろう。
しかし、成宮は笑ったりしなかった。
「それも立派な理由だ。いや、そもそも理由に軽いも重いもない。君がそれを誇りに思うなら、それでいいんだよ」
しっかりと赤城の目を見ながら、真剣な表情で成宮は言った。その行為に、赤城は胸を打たれた。
「実を言うと、私もそんな理由だ。詳細は語らないがな」
「……ありがとう」
「ふ、これも信頼関係構築の基礎だ。他人を否定しないこと、大事だぞ」
一瞬にして赤城の感動は終わりを告げた。
(まさかこの人……天然なのか!?)
クラッカーの件も考えると、成宮は威風堂々としながらも天然が入っている人物なのだろう。赤城は心の中で感動を返せ、と叫ぶのであった。
隣を見ると、狩矢が頭を抱えていた。そして、額に汗を浮かべて苦笑いしながらこちらを向いた。その目は、『気付いてしまいましたか』的なことを訴えている。
「本題に戻ろう。私たちの抗争の中で能力を使った戦いは半分くらいだ。残りは銃器などの武器を使った戦闘。だから、君にも銃器の使い方は覚えてもらわなければならない」
人と戦うのに最も楽な手段は、不意打ちである。その点から行くと、能力を使って戦うよりも、即死級の威力を持つ銃器に頼る方が効率的だ。だから、彼らは能力者であるかどうかを問わず銃器を使用する。
大人数の戦闘ともなれば、能力や銃弾が入り混じる激戦となる。
「道端で突然狙撃される、なんてのはよくあることだ。『裏』の領域にいる間は絶対に気を抜くな」
赤城はここでようやく狩矢が本部に入る前に言ったことの意味を理解した。それ以前に、もしかしたら本部に来るまでに狙撃されていた可能性もある。常に死を伴う、それが『裏』という世界である。