第一章 初心者ノタメノ説明書(1)
同日、と言ってももうすぐで1年が終わってしまう時間。赤城は少年と共に工場のような場所へと到着した。
「ここが、現時点での『白』の本部です。では、中に入りましょうか」
そう言うと、少年は錆びたドアを開けた。中は電気が点いていて、ようやく普通に視界が確保できた。
(これが本部? しかも『現時点』って一体どういうことだ?)
「疑問はたくさんあるでしょうが、今はとにかく中へ。『黒』の連中に襲われる可能性もありますし」
赤城はまだ『裏』の仕組みについての知識が浅い。せいぜい、『白』と『黒』が抗争を続けているということと、『裏』の動向が『表』にも影響を及ぼすことくらいしか知らない。
こんな時間に敵の本部に特攻を仕掛けてくる人間がいるとは思えないが、とにかく今は彼に従っておくのが一番だ。
そう思って、赤城は工場の中へと入った。
「案外、漫画とかでよく見る感じだよな。なんかこう、もっとハイテクじみてるのかと思ったが……」
「『裏』の組織だと言っても、基本的には学生が主力ですから。予算が少ないのですよ。それに、本部の強化も重要ですが補給地点の強化、増設も必要ですし……少ない予算でやりくりするなら、本部もこうなってしまうのです」
少年は微笑しながら説明をした。
「そう言えば、名前を聞いてなかったな」
「ああ、そうでしたね。僕は焔さんのことを知ってますが……僕は狩矢真。高校2年生です」
「同い年か。だったら別に敬語なんか使わなくても……」
「いえ、癖ですので。あまり気にしないでください」
工場の中はすこし入り組んではいるものの、迷うほどではない。しばらく歩くと、前方に階段が見えた。そこで狩矢が立ち止まる。
「この上に『白』のリーダーがいます。詳しい説明はそこで、となりますけど……今聞いておきたいことはありますか?」
笑顔の狩矢に、赤城は1つだけ質問をした。
「さっきから全く人影を見ないけど、他のメンバーは一体何をしてるんだ?」
『裏』については上に待っているというリーダーから色々と聞けるだろう。だから、赤城はふと気になったことを聞いたのだ。
「本部、とはいえ全員がここに集まっているわけじゃありません。この時間でも偵察をしている方もいますし、自宅に帰っている方もいらっしゃいます。本部に大人数集まること自体稀なことですよ」
「自宅って、『表』のか?」
「ええ、まあその辺もリーダーから聞けるのではないでしょうか。他にはありますか?」
「いや、十分だ」
「では、行きましょう」
狩矢はそう言って階段を上り始めた。こちらもかなり錆びていて、彼が一段上がるたびに嫌な音が響く。恐る恐る、階段が壊れないように赤城も上る。
上に近づくに連れ、話し声が聞こえてきた。どうやら上には何人かいるらしい。
(さて、どうなるのか。つーか、シリアスが続くのはどうも性に合わないんだよな)
赤城はため息を吐きながら階段を上がりきった。