終章 それぞれの一歩目(4)
どこかの路地裏で、その少年はデバイスを使ってインターネットに接続していた。そこにのっているニュースを見て、こう呟いた。
「終夜、頑張ってるんだな。俺も頑張らないと……決めたんだからな、俺は『こちら側』からお前を助けるって」
金髪のツンツン頭の少年はインターネット接続を切り、歩き出した。その隣には、彼よりも少し身長の低い少女がいた。
何故か頬を膨らませている彼女にわき腹を小突かれながら、少年は闇の中へと姿を消していった。
彼はすでに一歩目を踏み出している。次に踏むのは、二歩目だろう。
朝影は病室を出て、病院の屋上に来ていた。黒神は病室でまだ月宮姉妹と談笑している。つまり、彼女は現在1人きりだ。
「今回の事件といい、やっぱりおかしい。黒神が早織さんたちを助けた……確かにそれだけのような気もするけど、今までのことを考えると全て誘導されてるとしか思えない」
コルンで黒神の呼びかけにその場にいた全員が素直に応じたこと、敵対組織であるはずの『楽園解放』をあっさりと受け入れたこと。そして、『偶然にも』黒神がエデンの実験に関わったこと。
これらすべてに納得しろというほうが難しいだろう。
「誘導されているとして、一体誰が何のために? そして、どうやって? まだまだ問題が多すぎる……」
朝影は鉄で出来た落下防止用の柵に片手を乗せて、ため息を吐いた。
「でも、もう立ち止まるわけにはいかない。私の目的のために、次の一歩を踏み出さないと……」
踏み出した一歩は、彼女にとって大きなものだった。それがいつのことだったか、彼女以外は誰も知らない。
彼らはそれぞれ異なる一歩を踏み出した。
進みだした時間は止まらない。否、止められない。
変わりゆく世界の中で、太陽だけが変わらず人々を照らし続けていた。