第一章 運命の邂逅(9)
「なっ!?」
驚いた声をあげたのは朝影のほうだった。
彼女の両手から出ていた氷柱が、黒神の体に当たった瞬間、粉々に砕けてしまったのだ。
「……し、死んでない? 俺、生きてるのか!?」
黒神は自分の体に触れ、生きていることを実感する。
(嘘……確かに手応えはあった。なのに、『氷槍』が砕けるなんて!!)
「朝影?」
「くっ、貴方やっぱり私をからかってるの!? それはどう考えても能力よ。そうでなきゃ私の『氷槍』が砕けるわけがない!!」
彼自身は気づいていないようだが、黒神の体からは湯気にも似た白いオーラが出ている。
「オーラ。貴方、自分の体を見てみなさいよ」
「な、なんだ、これ」
「能力者が能力を使うときに自然と出るものよ。オーラの色は能力の属性に影響されるわ。私は氷属性だから青色、貴方のは白だから……無属性ということになるわね」
「デバイスが、このタイミングで適合したのか……!?」
黒神はポケットからデバイスを取り出す。だが、デバイスに表示されているのは『不適合』の3文字。
「……本当に分かってないの? だとしたら、今ここで殺しておくべきね」
「朝影……」
それ以上の言葉は無かった。再び氷柱を出した朝影は、今度こそ黒神を仕留めるためにそれを振り回す。
「うおっ!?」
黒神の体は勝手に動いていた。振り回される氷柱を間一髪で回避し、すぐさま距離をとる。
(なんだ? 初めて使うのに、この能力のことが分かる……? どうして――なんて考えてる暇はないか!!)
本能のままに、朝影の攻撃を回避していく。
「くっ、『冷却』!!」
彼女の周りの大気が凍っていく。その範囲はどんどん拡がっていく。部屋で見せたのはこの力のほんの一部に過ぎなかったらしい。
「この状況を作り出したのは、それだったのか!」
「ええ、でも今度は失敗しない。凍りなさい!!」
(分かる。分かってる。俺は、凍らない!)
黒神はこちらに手をかざしている朝影に向かって突進した。
「やっぱり凍らない、か。なら、『氷槍』」
突撃してくる黒神の前に、一本の巨大な氷柱が形成される。さきほど凍らせた大気を集めたのだろう。その氷柱を一旦引き戻し、突き出す。
「これで、終わりよ!!」
見えていた。
氷柱が形成されるのも、そしてそれを朝影が突き出してくるのも。だが、黒神は止まれなかった。地面が凍っていて、急ブレーキが出来ないのだ。
そこで、彼がとった行動はこうだ。
「うおぉぉぉぉっ!!」
右の拳を突き出す。そう、氷柱の先端が体に突き刺さる前に殴ったのだ。
バキィッ!! という音と共に、巨大な氷柱はその先端から砕けてしまう。
「そんな……嘘でしょ!?」
「朝影、これで終わりだぁぁぁぁっ!!」
今度は黒神の番だ。
彼のスピードは地面の氷のおかげで加速し、踏み込むことはできないがそのスピードを生かして殴ることは可能だ。
右の拳に全ての力を集中させる。そして、原始的な音が響き、少女は氷の上に叩きつけられた。
残念なのは、結局踏ん張りがきかず、殴り倒した少年もこけて氷に顔面を強打したことか。