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全員オトすまで帰れまセン!  作者: 優凛
導入
1/3

Prolog

 自分の何が不幸って、目の前にいるこの男が父親である時点で不幸なんだとしみじみ思う。


「まぁ、そう緊張するなって」


 ガチガチに椅子に縛られて動けない娘を前に、白衣に眼鏡の鬼畜野郎がにこにこと笑う。


 彼は剣菱(けんびし) (ゆずる)

 剣菱(けんびし)脳科学研究所の所長にして、唯一の所員であり、バツイチ子持ちの自称マッドサイエンティストの糞野郎である。


 譲は父親としても人間としても、最低で、屑で、死んだ方が世界の為になる男だった。

 何故ならば、なまじ資産家の一族に生まれたせいで潤沢な資産を碌でもない研究費に注ぎ込み、


「君達には、これから僕が自作したギャルゲーの世界に入ってもらうよ。ふふふ、きっとたのしいぞー?」


 娘、剣菱(けんびし) 涼子(りょうこ)と、その幼馴染の少女、(いずみ) 巡流(めぐる)を毎度毎度、実験体として危険に巻き込むからである。


「こっっの! クソ親父! いいからこの拘束を外せ!」


 ガッッ! ガッッ!

 長く美しいおみ足で乱暴に机を蹴りつけながら、憎悪に燃える瞳で譲を睨み上げる。

 彼女の名前は剣菱(けんびし) 涼子(りょうこ)。譲の可愛い実験動ぶ……愛娘である。


 この親子、実に外見が良く似ており、長身痩躯でくっきりした目鼻立ち、肩まである長い黒髪を無造作に一つにまとめ、切れ長の冷たい瞳で人を見下ろすのがデフォルトだ。

 ただし、娘の涼子は日々研究施設にこもりきりの父親とは違い、幼い頃から道場に通っている健康体であり、弾力のある肌の下には程よい筋肉が乗っている。


 ぐわん! 涼子のひと蹴りが家具を引っ繰り返しそうになる度に、父親がにやにやとそれを戻す。

 またそれに腹を立てた涼子が再度机を蹴りあげて。と、幾度と無く、見飽きるほどに繰り返されるコントのような喧嘩に溜息をつきつつ、鉄板製の拘束具にも慣れた様子で巡流が二人に向けて静止の声をあげた。


「ああもう、どっちもいい加減にして! りょーちゃんは落ち着く! オジサンはりょーちゃんをからかわない!」


 細く長い涼子と比例するように、小さく丸い眼鏡の少女は鼻息荒く、頬をふくらませて見せる。

 太ってはいるが、どこかぬいぐるみの様な愛らしさを持つ巡流のくりっとした瞳で見つめられる動作に昔から剣菱父娘は弱かった。


「ごめん、めぐ」


「うむ。すまない。少々大人気なかったな。しかし、巡流くん」


「はい?」


「オジサンではなく、博士と呼びたまえ」


「ははは。死ね」


 巡流は正直者である。その隣で娘たる涼子もウンウンと肯いている。


「いやだなぁ。怒ってるのかい?」


「幼馴染みの家に遊びに来たら、椅子に拘束されて、今から実験開始しマース。実験体は君達デース。って言われて、怒らない人間はいないと思うなぁ」


「実験体なんて今に始まった事じゃないだろう? それに、それでも君は涼子の友達でいてくれるじゃないか」


「りょーちゃんの友達であって、オジサンの実験動物(もるもっと)ではないんですけどね」


「ごめんな……めぐ。ほんと、いつかこのクズ、殺すから」


「その時は手伝うよ。りょーちゃん」


 そう二人の少女の涙ぐましい友情を笑顔も崩さず鑑賞した後、譲は細長い数ミリ程度の針が伸びる注射器を二本、懐に入れてあったケースから取り出した。

 透明の注射器の中には鮮やかな緑色のどろりとした液体が見えており、明らかに人体に良くない影響を与える物だと二人に認識させる。


「大丈夫。これはちょっとの間脳の働きを緩慢にさせるお薬だよ。次に目が覚めた時は、君達は新たな世界にいる事だろう」


「クソ親父。一つ聞くぞ?」


「なにかな?」


「それは……何回、成功した?」


 どうせ実験内容を聞いても、どう言った装置を使うのか聞いても、凡人である少女達には理解など出来るものではない。

 されど、せめてこれだけは聞いておきたい。

 この実験は人間で試せるモノなのか?


「やだなぁ、涼子ちゃん」


 この親子は実に良く似ている。

 娘の友達は昔から、幼馴染の巡流1人である。


 そして、彼はこの研究所の所長にして唯一の所員であり、バツイチである。


 つまりは。


「パパには涼子ちゃんたちしか、居ないんだよ?」


 そういう事である。



『この研究はね、これからのテレビゲームにおける未来的な……であるからして……ネットワークに脳ごと……接続……仮想世界をつくり……』


(くっそ。何言ってるんだ、クソ親父……めぐは……無事、なの、か?)


 緑の液体を注入され、頭が上手く働かない。意識はあるが常にぼやけた状態で、視界を映しても記憶の情報と照らし合わせることが出来なくなっている。

 身体は動く。そのせいで手を引かれればそのまま動いてしまうようだ。

 きっと巡流も同じ様な目に遭っているのだろう。


『さぁ、始めようか』


 研究所の一番深く、地下の研究施設に着いたらしい。

 そこには巨大な液晶ディスプレイと二台の未来的な椅子が置いてあった。

 何本ものチューブやケーブルに繋がれ、頭には近未来を題材にした映画などで良く見られるヘッドギアらしきものを着けられる。


『まずは君達の脳を電子に繋げ、予め創っておいた仮想世界を直接ダウンロードする。ヴァーチャル・リアリティを更にリアリティにした、まさに楽園とも呼べる世界に行けるのだよ! やったね! 涼子ちゃん!』


(死ね! 糞野郎!)


『ちなみに、君達の行く世界はパパが学生の頃、ゲーム同好会で創ったギャルゲーがベースになっていてね。そこではリアルでギャルゲーが出来るんだよ』


(……女がギャルゲーやってどうすんだよ! ってか何でギャルゲー?!)


『ん? 今、何でギャルゲーなんだって思ったかい? それはね、可愛い涼子ちゃんが怖い目にあったり、痛い目にあったりしたら嫌じゃないか。

RPGの世界でモンスターに殺られたらどうする? 戦争物のFPSは? ああ、考えるだけでパパは怖いよ!』


(アホか! お前が一番怖いわ!)


『でもね! 恋愛シミュレーションなら誰も死なないし、更に可愛い女の子達と恋愛も出来ちゃうんだよ!』


(だから女が女を落としてどうする!)


『あー……大丈夫、大丈夫。向こうへ行ったら、主人公の君達は男になってるから。じゃないとギャルゲーにならないしね』


(あのー、わたし関係ないですよね。むしろギャルゲーって、一人用じゃないですか)


『だって涼子ちゃん一人だと、ちゃんとやってくれるか心配だし。何より、研究結果は多い方がいいと思って』


(ほんと、死ねばいいのに)


『そうそう、最後に! ゲームクリア条件として、“全員オトす” まで帰れないからねー』


(は?)


(え?)


『それじゃあ! ゲーム、スタート!』


 ぽち。


 ザーッ――


《 仮想世界 “恋色センセーション!” ダウンロード開始します……》


《 ダウンロード率……10%……15%……30……50……98、99……100%完了しました》


〖 恋色センセーション!〗


 カタカタカタ……。


『あなたの名前を入力して下さい。』


 カタカタカタ……。


『あなたの誕生日を入力して下さい。』


 カタカタカタ……。


『あなたの年齢を入力して下さい。』


 カタカタカタ……。


『これで始めますか?』


 →はい

  いいえ


『恋色センセーション! はっじめっるよ~!』


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