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森の中で散歩(時にそれは危険な香り)

ひさびさの投稿でごんす

「で、先生。俺はこれからどうすればいいんでしょうか?」


ファンタジー生活なんてしたことがないので、とりあえず傍らで座り込んでる少女(幼女?)に訊ねた。

草原をひたすら歩き、うっそうと生える木々たちがすくすくと育っている森の中で小休止中である。

俺自身も、彼女の隣に座っている。

そう、体育すわりで。

日本人の基本、愛すべき心の姿、古きよき時代の日本よよみがえれ!!!なのである。

意味はまったくない。


「そうですねー、ここはあなたの世界にある物語としてのファンタジーと同じ世界観なので・・・」


顔は澄ましているものの、俺の問いに答えた声にちょっとした自尊心と、隠しきれない喜びが混じってる。

先生と呼ばれることが、よほど嬉しかったらしい。

この子...ちょろいな。

心を読める彼女にばれないように極力心を殺しながらうっすらと思うと、彼女の説明に聞き入る。

曰く、この世界にはいくつか国があるが、それは領主が納める領土の集合体らしい。

主だった都である城塞都市の周りにいくつか村が点在し、それを領主が納めているとのこと。

ちなみに、今いる森は西側にあるトランザムという国の南西にあるフェルツィーナという領土。

アダム・フェルツィーナという50代前半の領主に治められ、なかなかの善政をしく領主として知られてるとのこと。

ミレージュによると、初めて異世界に来た俺に、初心者向けの場所を用意してくれたとのこと。

それはそれは、素直に感謝すべきであるな。うむ。

とりあえず、金色の髪の天辺をなでておいた。

野良猫や野良犬で鍛えたモフモフすきるはいまだ健在なのである。

目を細めて気持ちよさそうにしているミレージュ嬢。

おこちゃまを手玉に取るなんて、おちゃのこさいさいなのである。

うむ、俺は悪い大人・・・自分の才能が怖い。

なんてくだらないことを考えながら、なでなでし続けると、我に返ったのか少女が俺の手をはたき落とし、とても怒ってますなポーズで叱責する。


「子ども扱いはやめてください!!もう、そうやってずっとふざけてばかり!!あなたは異世界に転移したという状況をもう少し真剣に考えたほうがいいと思います!!!」


「あー、本当にごめん、つい出来心で・・・」


「そうやって、すぐふざけるんだから!もう、私が言ってることが本当に大切なことだっていうことをわかっているんですか!!!!」


「わかってます、とてもわかってます。というか、いまわかりました」


俺の答えに不満があったのか、さらに言い募ろうとする彼女の口をそっと手でふさぐ。

眉を寄せる少女にかまわず耳元に口を近づけると、そっとささやいた。


「だって、囲まれてるんだし」


言い終わったのを合図にしてか、グルグルといううなり声があたりに響いた。

どこから、という問いは意味をなさないだろう。だって、その声は、あたり一面から聞こえてくるのだから。


「この声は、ワイルドウルフですね。ウルフとはいえ、オオカミというよりも犬に近い習性があります。群れを成して行動し、群れで狩りをする。本来ならばそんなに狂暴というわけではないのですが・・・警戒と怒気を感じます。なにかあったのでしょうか?」


「それはわからないけど、一つだけわかるのは、俺たちがこのままじゃやばいってこと、かな?」


軽口をたたいて見せた俺の前に、姿を現したワイルドウルフ。

見た目は、まんまシベリアンハスキー。ちょっと色黒で大きいだろうか。

それが、何頭も何頭も、ぞろぞろと姿を現す。

殺気立っているな。

一触即発を絵にかいたような状況に、隣にいる天使様が少し怯えた表情を浮かべた。


「これ、なんとかなるような、起死回生の一手とかって、あるかな?」


「ばばばばばばかにしてもらってはこまりますよ、これでも天使ですよ、下界の生物ごときに後れを取るようなことはあるわけがないいいいではありませんかですよ!」


訂正。少しどころか、めちゃくちゃ怯えていたわ。

こりゃ、俺が何とかするしかないけど、どうする?獣ではなく、魔物。身体能力は、通常の動物の遥か上をいくだろう。どうにかできるか?普通の人間の俺に、どうにか。


「できるできないじゃなく、やる、やらないだろうな、これは」


怖がってる天使様の頭をくしゃくしゃっと撫で、腰に差した刀を左手でそっと撫でた。

元の世界でも感じた感覚。引き締め、研ぎ澄まし、集中し、冴えわたる。

世界とつながる感覚。

さぁ、行こうか。


「さぁ、踊ろうか。この世界と」


その言葉がきっかけとなり、お犬様たちは宙を舞う。




ご都合主義、という割には体がよく動いた。

元の世界でもなかなか得難い経験をしてきた自負があるが、さすがにすべての攻撃をかわすような技は持ち合わせていない。

無論、肉体的限界に挑戦するようなアスリートではない。

少女を守るために、自分の身を痛めつける覚悟を決めただけだ。

精一杯のカッコつけで厨二病的なつぶやきをしてみましたが、それがなにか?って感じなのであるが、だがしかし。


「なんか、ちょっとだけ主人公してない?俺」


自分の思考に苦笑いしたまま天使様を見ると、恐怖半分、驚き半分で俺を見ている。

そんな彼女に対してさらに笑みを深めると、わんこ達の攻撃が自分に集中するように間合いを詰めていった。

躱し、いなし、時に鞘がついたままの刀で薙ぎ払う。

殺すことも、殺されることも拒絶したまま終わりのない攻撃を耐え続けていると、ふと、視線の先に何かがうつった。


「ん?なんだあれ?」


自分の口から自然と零れ出た声が存外に余裕を持っていて、それに対してまた苦笑しながらも目を凝らしてみてみる。

粗末な服を着た、男二人組のようだ。

必死の形相で、手に何かを持ったまま逃げようとしている。

なんだ・・なにを・・?

二人がかりで運んでいる純白の物体を目にした瞬間、俺は飛び出した。

ワイルドウルフの壁を乗り越え、薙ぎ払い、その男たちの元へと肉薄する。


「があああああああああああ!!!!!!!!!」


居合の要領で鞘から刀身を抜き放ち、白い物体・・・幼い犬・・・を束縛したグルグル巻きの鎖を断ち切った。


「だああああああああああああっ!!!!」


返す刀で、首輪も切り離す。

束縛という、檻を壊す。


幼い犬の前に立ち、刀を男たちに向けて疑問を投げかけた。


「問う。この状況を作り出したのは、お前たちか?ワイルドウルフに怒りを持たせたのは、この子が原因か?答えろ」


自分でもびっくりするくらいに冷酷な声が口を突いて出ていく。

刀とその声におびえたのだろう、男たちは後ずさる、無言のまま。

それに再び問おうとしたところで・・・時が弾けた。


いままで俺に襲い掛かっていた無数のワイルドウルフたちが、一斉に男たちに襲い掛かったのだ。

咬み、噛み、突き立て、食む。

断末魔の声は、あっけないほどにすぐに途切れた。


残酷ともいえるその光景を、俺はじっと見ていた。

何が原因なのか、どういう状況なのかわからない。

だが、ただ、彼らは魔物たちの怒りを買った。そのことだけは、理解できた。


木漏れ日が綺麗な、そんな日だった。




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