最も強い結びつき
道場の人数が増えたのはまぁいい。
頭が痛いのは誰も彼もが剣術馬鹿で、それ以外を全く考慮しないことだ。
おっさんは当道場の主。先代の周斎老のように営業的な才能があればなお良かったが、だがまぁやっぱりおっさんには剣の方をしっかりしていてくれればいい。余計なことマジすんな。
総司は剣の申し子だ。
他の俗世のことに関わりなきほどに剣の才にあふれているのだ。
他を求めてはならん。だから、出稽古先で相手をビビらせて出稽古先を減らさないでくれ、頼む。
八っつぁん、佐之頼むから遠慮というものを覚えてくれ。
おひつにあるものは俺のもの、なんていうジャ○アニズムを展開するのはよせ。三杯目にはそっと出しって知っているか?
「じゃあ、おひつごとくれよ」だと?
フザケンナ!
山南さん、あんたを悪くいってすまなかった。
あんたのおかげでまだ八っつあんたちの暴走を抑えてくれて助かってるよ(それでもヒドイけどね)
でもあんたも割と感覚が庶民的じゃないから気をつけてくれ。
源さん、あんたは数すくない俺の理解者だ。
いつも気づいてくれてありがとな。
要するにだ、皆士分の感覚なんだよな。
銭金に関わるのはは不浄なモノと思っているからあまり意識しないんだよな。
何か買うときも財布を預けて料金分持っていってくれ、なんてほどに徹底しているから基本金の管理に関してルーズだ。
そんなわけで、根が商人の俺が割りを食っている。
なんで人ん家の台所事情を心配しねぇといけねぇんだっ!
武家の妻である以上おっさんが認めた客分に文句をいうわけにもいかないツネさんの苦労を思う。時折コメカミに血管が浮いているのが気の毒で俺もおっさんや八っつあんらのように振舞ってしまえば楽なのだと知りつつもできない。
この頃には薬売りに扮した道場破りの存在も知れ渡っていたから
そっちのほうで稼ぐのもむずかしかった。
仕方なく義兄に頼み込んでお世話になっている先生達にお礼をしたいといって米なんかを送って貰えば、割とキツめの目をしているツネさんだが、ついに泣き出してしまったほどだった。
それを見た八っつぁんたちも思うところがあったのだろうが、俺はすぐ元に戻るだろうと踏んでいる。
結局苦労を分かち合えるのはツネだけなのだった。
なんとかしねぇとなぁ。