続・山南敬助
「おっさん!そいつぁ道場破りに違ぇねえぜ。」
「歳、俺の方から頼んだのだ。」
「あんたが闘うってことの意味わかってんのか!せめて俺にやらせろ」
「歳!!彼は道場への客人である!・・・少し黙れ。何より相手が俺でなければ意味はなかろう」
「しらねぇぞ」
義兄弟の誼とはいえ、道場のことといえば、歳三は一介の門下生に過ぎず、口を挟める立場ではないのだ。
「すみませんでしたな、私が剣しか取り柄のないもので彼には心配をかけておりましてな。決して悪気があるわけではないのですどうかご容赦を」
「いえ、確かにそのように取られかねない提案でしたのでこちらこそご無礼を致しました」
双方が謝罪を述べ、これで手打ちかと思われた。
「さて、それじゃあやり合いますか」
近藤に中止という考えた方はなかったのである。
いざ竹刀を構えて向き合ってみて、妙なことになった、と山南は思った。いや、元々望んだとおりの事態ではあるのだ。
ただ、試衛館に訪れる前と今では心の有りようが違っている。
目の前の男の4代目襲名披露の場に偶然立ち寄った、自分と道場つながりの連れであったが、
「ほう、聞かぬ名だが、なかなかの動きをする」
「ちゃ?ありゃいつぞやの薬売りぜよ。ただもんじゃないち思うちょったがやりおるきに」
などと言うのである。
そういえば以前面白い薬売りがおったがよとはしゃいでいたことがあったがその相手がいたのだろう。
どうも二人の何かに触れるものがあったらしく、帰宅中は例の道場の話で盛り上がっていた二人にどこか面白くなかった自分は、ならば腕をみてやろうではないか、と思って訪ねてみれば何人もの道中の人に聞いてもとうと知れぬ。ようやく道を知るものがあり、着いてみれば今にも朽ち果てそうな有様ではないか!
自分は何故このような道場に張り合おうとしていたのか馬鹿馬鹿しく思い帰ろうと思った。
しかし、何故か打ち響く竹刀の音に引き寄せられて足を踏み入れてしまったのはやはり自分も剣士だったということか。
偶然会った門人と思われる青年に一応、ここが試衛館かと訪ねれば首を傾げられる。
そうだよな、名の聞かぬ道場とはいえ、さすがにこれはない。
おそらく間違ってしまったのだろうと思った。
がどうやら試衛館で間違いないらしい。今の間は何だ!?自分の通う道場であろう!
しばらく待たされて面通りが叶った男は確かに先日みた男であった。
なかなか強面の男だ。
挨拶がてら時勢の話を振ってみるが、どうもその方面には疎いようだ。
しかし、妙に知ったかぶりなどせずに真剣にこちらの話を聞く態度などは好感が持てた。まぁ道場の主としては多少危ぶまれるところもあるが。
話題も欠けてきたところで、そろそろお暇しようかと思ったところで向こうから声を掛けてきた。
この道場に足を運んで、論説をしてほしいという。
正直お断りな話だった。
これ以上ここの道場に訪れるだけのものはない、と思っていたからだ。
一試合して、考えてみましょうとつい口が滑った。
"この道場に訪れる価値があるのか見せてもらいたい"
と捕らえられてもしかたのない発言がつい口をついてしまった。
ただ断るだけでよかったのに考えていた内容を口にしてしまった。
当然、道場の門下生(なぜ彼がここにいるのか?)は激高した。
道場の名前も覚えていなかったくせにと思わないでもないが。
道場主はなんとか彼を宥めすかして謝罪をする。
こちらも謝罪をして、おしまいと思ったら一試合しようといい、向き合っている現在に至る。
まぁ、当初の予定通りか、と構えた。