気づけば
もし、新撰組鬼の副長、土方歳三がよく言われるような人物像じゃなかったら。青たぬきの「もし○ボックス」に頼らずに考えてみる。
どうしてこうなった・・・?
俯きがちに男は京の町を練り歩いていた。
思えば遠いところまできたものである。
なんて、言ってる場合か!
くそっ!
苛立ちを込めて地面を踏みしめる。
「あれが、狼を手名付ける鬼か」
「ひぃっ鬼長だっ」
「目を合わせちゃいけません」
周りの民衆は好き勝手なことを言いながら俺たちを取り巻き、畏怖と好奇のを合い混ぜにした視線を投げかける。
今日の活動を前に緊張して眠れなかった男はちょっと気分転換にと称して結局朝まで今日の予定を見直してしまった。
幸いというか鍛えられた体は1日2日の徹夜で悲鳴を上げるほど軟弱ではないが、結果として目が充血していた。
ましてや、杞憂であるのだが、顔を上げて歩いていたら睨まれるのではという恐れから、俯いて今日の予定を確認しながらぶつぶつ呟いて歩くその様子は端から見ればひどく怪しく、不気味である。
実際、周囲の様子を見るべく顔を巡らせれば女は震え、子どもは泣き出すということがさっきから頻繁に起きている。
俺が一体何をしたというんだ・・・。
そう心の中で呟いて泣きたい気持ちを必死にこらえながら身を震わせる男を町民たちは今にも噴火しそうな火山のごとく恐れているということに気づくこともなく。
そう、俺は今、京の町を練り歩いている。
大事なことなので繰り返し言った。
そして付け加えよう。
俺は周りを屈強な男たちに囲まれている。
正確には彼らと徒党を組んで見回っているのだ。
浅黄色に白のダンダラ模様の羽織を揃い着て。
八つ当たりとばかりに地面を踏みならして最後尾を歩いている。
「いい加減誰か歳さんに教えてあげなよ。ふてくされた行動が逆効果でみんなを恐れさせてるって」
もうそれなりの年のはずだがまだ青年と呼ぶには幼く見える男が、隣を歩く対照的にとても巨大に見える男を見もせずに言う。
「なーに、案外歳のやつも新撰組の箔付けにちょうどいいと思ってやっているんだろうさ」
「え?何それ、本気で言ってんの?」
「はっはっは」
呆れた顔でついに大男の方に顔を向けてしまった青年に大男は笑い返して言った。
「歳のやつはそのくらいは軽々とやってのける奴さ。とは言えそうだな、おーい歳やい!足並みをそろえてハキハキ歩いた方が隊として見栄えよかろうが。」
そう言われて数歩歩いたところで一団の足並みが綺麗に揃い、隊の組織力の高さを民衆に見せ付ける。
「あれが、壬生狼。」
――そう言って男は唾を飲んだ。