Section42
Sierra
――私とマリエルはずっと一緒に逃げ続けていた。
もうそろそろブロンシェル方面の道に出るはず。
南側の城門は予想通り、ヴァイスハルト伯が開放してくれた。
あの人はやっぱりすごい。
私に出来ないことをさらっとやってしまう。
4家のリーダーだけある人だったってことだよね。
こんな状況になっても逃げ出さずに、正々堂々と攻めてくるシュヴァルツの軍に立ち向かって戦術的には勝ったんだ。
数で考えたら相当厳しかったみたいだけど、少数の軍で見事に門を開放して見せた。
それで、大勢の逃げた人々を救ったんだ。
だからきっとあの人は……またシュヴァルツへ立ち向かうと思う。
私も負けてられないよね。
自分のやらなければならないこと……いや、今目の前にある目的を果たさないと。
逃げるために生き延びているんじゃなくて、生き延びるために逃げているんだ。
もっと言えば、ブロンシェルへ行ってエルナに会うため。
――絶対にこんなところで、死ぬ気はない。
ちょうどそう思っていた時に、マリエルが話しかけてきた。
「……もう少しですよお嬢様。ここを出るとブロンシェルへの街道に出るはずです。そこから少し行くとディジスという小さな町に着きます」
「うん…頑張ろう……」
私はそう言ったものの、大分疲れていた。
……こんなところでくたばるわけには行かない。
だけど、思うように足は動かないし、汗もびっしょりかいてしまっている。
(――今頃、エルナ達はどうしてるんだろう……)
こんな時にふと、気になってしまう。
私もエルナと同じように最初からシュヴァルツでもブロンシェルでも逃げていれば良かったのかな。
何故かこの際になってそんなことを考えている自分がいる。
今はこんなこと考えている場合じゃないのに。
そういえばマリエルが言っていたディジスってどこにあるんだろう。
私はマリエルに聞いてみる。
「マリエル、ディジスってどこにあるの?」
「ラトフィアから西に少し行ったところですね、あまり遠くはないです」
そうなんだ。
マリエルの話によれば、歩いて3、4時間のところにあるみたい。
今までどれくらい走ってきたか分からないけど、もうそろそろだと言っていた。
「ディジスから馬を借りればクォンツィアまで1週間くらいでいけると思います」
「それでも一週間かかるんだ……」
思ったよりブロンシェルって遠いんだなぁ。
と、そういえば。
「ねえマリエル、お金とか持ってきてないよね?」
さすがに、お金がないと生きていけないよね。
「それに関してなのですが、手持ちのものしか持って来ていませんので……」
「ってことはお金に変えられるものは殆どないってことだよね」
それは少しまずいと思う。
ブロンシェルにつく前に餓死とか嫌だし……
「そうですが……一応金目のものは少し持ってこれましたので1週間くらいなら大丈夫だと思います」
「え、そうなの?」
てっきりすごく切羽詰ってたからいくらマリエルでもそこまで頭が回らなかったかなと思ったけど逆に切羽詰っていたほうがマリエルは頭が回るのかもしれない。
というか、マリエルはいつも回りに対する配慮が鋭いから本人にとっては当たり前なのかもしれないけど……
「お嬢様、休んでいる暇はありません。早いところディジスへ向かいましょう」
「そうね、ちょっと休憩にもなったし行こうかな」
私たち二人は立ち上がる。
ここまで来て、またふと思うことがあった。
お屋敷にいた使用人たちとも離れ離れになって、みんながどうしているのかも分からない。
こんな不測の事態でこれからどうすればいいんだろうと不安になる。
マリエルは確かに頼りになるけど、逆に考えればマリエルと離れたら私一人じゃどうしようもなくなるだろう。
それにマリエルだって万能じゃない。
出来ないことも色々あるだろうし、いつでもうまくいくなんて限らない。
ましてやこんな状況だし……
(――でも、とにかく今は……ここから逃げることだけを考えないと)
そう、それでブロンシェルへ行ったら後のことはまた考えればいい。
そんなことを考えながら私たちはまた走り出した――




