Section13
Lucerna
2日目は鉱山見学に行くことになっていて、今まさにその鉱山の中にいる。
まだこの鉱山は現役みたいだけど、見学用に開放されているのは今では使われてない場所になっている。
なんか薄暗くてちょっと気味が悪い。
「ルーシェちゃん、怖いよー!」
ティアナはなんか怖がりみたい。
……さっきからずっとこんな感じだった。
「大丈夫だってば、別に鉱夫の幽霊なんて出ないって」
「幽霊怖いよー!ルーシェちゃん、でたら助けてね……?」
ティアナがめちゃくちゃ腕にしがみついて来る……
い、い、いたいいたい!
この子どれだけ強くしがみついてるわけ!?
「……い、いだいー!」
「どうしたのルーシェ?」
クレアさん助けてください、私ティアナに腕折られそうです。
しにそうですいたいです。
あんなこと言ってティアナを脅かさなければこんなことには……
(……あ、そうか――)
いいことを思いついた。
「テ、ティアナ、ほらー大丈夫だよー!幽霊なんて出るはずないよー!」
とりあえず頭なでなでしてみた。
「ほんとに大丈夫?幽霊でない……?」
「でないでない!ほらでないよー!」
「じゃあ、出たらルーシェちゃんが追い払ってね!」
無理です。
とりあえず離してくれたので良かった……って良くない!
腕の感覚ないんですけど!私の腕どうしよう。
見た目によらずティアナは恐ろしい子だ。
……要注意人物指定!
「ルーシェも大変ねー」
クレアさんあなたも人事じゃないですー。
今に見てればいいもんね。
「クレア、私がいつかティアナを使いこなせるようになったらもうあなたは終わりだからね!」
「……何する気よ」
「ルーシェちゃん、私がどうしたの?」
……。
とりあえずごまかしておけば大丈夫、だと思う。
「ん?なんでもないよー」
「そっかー!あ、外に出れるよー」
やっと外だー!
なんか鉱山の中ってかなり暗いよね、昔はこんなところ電気とかもあんまりつけないで働いてたなんて……
――今と昔ってやっぱり違うんだなぁ。
戦争とかも今では考えられない、国同士が戦争することなんてめったにないことだしね。
資料で見るのは簡単だけど、実際に考えてみるとすごく怖い。
戦争はやっぱり……起こしてはいけないことだよね。
そんなことを、この鉱山の中で私は考えていたのだった。
鉱山の見学を終えた後、みんなでご飯を食べて、昨日と同じように私は資料館を見ていた。
この鉱山の見学でもミネラドロワの工業の歴史や、国自体の歴史などが詳しく解説されている。
ミネラドロワ自体は、旧灰の国のグリスから250年前の戦争の後に独立したとある。
250年前の戦争、アグレシオン戦争はシュヴァルツ、グリスの連合軍とアルジェント、ブロンシェルの連合軍での戦争の話。
簡単に説明すれば……戦勝国にはなったグリスだったけど、戦争で財政難に陥り治安や政治が悪化したらしい。
それで、グリスは圧政を敷いてますます国内は悪化して、反発した人たちが新しく国を建てた。
これがミネラドロワ。
そして独立後20年後位に、膨大な資源があることが分かって工業が飛躍的に発展。
産業革命と折り重なって、武器や鉄鋼を隣国に輸出して国をまかなってたみたい。
ちょうど私が説明を読んでいると昨日と同じようにラルフが私に話しかけてきた。
「ルシェルナ、今日はミネラドロワの歴史を見ているのか?」
「あ、ラルフ。そうだよ、あんまり詳しくなかったから勉強になってる」
「ミネラドロワはとにかく資源が豊富で、それだけで国がまかなえたみたいだな」
「うん、そうみたい。そして、ブロンシェルとシュヴァルツの両方と交易をしていたから緩衝地帯になっていたって書いてあるね」
……しばらくはそれで均衡を保っていたみたいだったけど――
結局、シュヴァルツが戦争を始めてしまったらしい。
「シュヴァルツは一方的に戦争を仕掛けたみたいだ、それから僅か10年ほどで今の統治体制を作り上げてしまったらしい」
「そんなに早かったの?」
「らしいな。最初に併合されたのがアルジェント、次にミネラドロワとブロンシェル、最後にグリスだ。これをたった10年で併合してしまった」
あれ、ちょっとおかしい気がする。
200年前の戦争のときはシュヴァルツとアルジェントの連合軍がミネラドロワとブロンシェルに侵攻したんじゃなかったっけ?
「ねえラルフ、じゃあなんでアルジェントが最初に併合されたの?」
「……その点については謎が多い。だが、事実関係から答えれば、降伏したのはミネラドロワ、ブロンシェル、アルジェントの順らしい」
「じゃあ順当に考えればミネラドロワが最初に併合されたはずなんだよね?」
「そうだな、だからいくらシュヴァルツが同盟国のアルジェントを裏切って侵攻を始めたとしてもその前にミネラドロワが併合されたはずだ」
あれ……なんかこんがらがってきた。
ええと、アルジェントはシュヴァルツに裏切られたんだっけ?
……それは初耳かもしれない。
で、ブロンシェルとミネラドロワに勝利したあとで、アルジェントはシュヴァルツに裏切られたってことなんだよね。
じゃあアルジェントはシュヴァルツに利用されたってこと……?
よくわからないので、ラルフに聞いてみることにした。
「ラルフ、アルジェントはシュヴァルツに利用されたってことなの?」
「ルーシェはそこまで読めたのか、なにぶん資料が少なくてそこまで分かってないが、そういう説が有力だな」
やっぱりそうなんだ。
ってことは、アルジェントの一番の謎で、ジルが調べているのは……
「……なんでシュヴァルツがアルジェントを裏切って攻め込んだのか、ってことが分かってないんだよね?」
「だな、たった200年前のことなのに、まったく分かってないのがまた謎だ。根拠になる資料それ自体がほとんど見つかっていない」
「思い当たるのは、もうシュヴァルツにとってアルジェントが用なしだったってことだよね」
「……そう、僕もそう考えてるよ」
ちょうど私がそういったところでジルが答えてきた。
やっぱりジルも同じ考えだったみたいだ。
「……ただし、その考えも完璧だとはいえない」
今度は反論するようにラルフが付け加えた。
ラルフはそのまま話を続ける。
「俺が考えているのは少し違う。仕組まれるべきして仕組まれたんだよ、第一考えてもみろ、一番最初にシュヴァルツがブロンシェルとミネラドロワに戦争を
仕掛けたんだぞ?」
「ラルフのその考え、詳しく聞かせてほしいな。ちょっと興味深いし」
確かにちょっと聞いてみたい、私も興味がある。
「ブロンシェルもミネラドロワもだいぶ対抗したらしい、シュヴァルツだってだいぶ戦力を消耗していたはずだ」
……あ、確かにそうだよね。
最初はブロンシェル、ミネラドロワ対シュヴァルツだけだったはず。
シュヴァルツだって、当時はブロンシェルと同じくらいの国だったはずで、そんな国と散々戦争した後にやっと辛勝したような状況でアルジェントに攻める勇
気が何故あったのかって考えるとおかしいような気はする……
「確かに……よく考えてみればラルフの意見には一理あるかもしれない」
ジルも感心しているみたいだ。
「まあ、何か作為的なものだったとして、俺にはそこまでしかわからない。それに確たる証拠がないからな、何より証明することができない」
「いや、そこまで考えてればすごいと思うよ。そういう線を考えて僕もまた調べてみる」
……ラルフって頭いいんだなぁ。
ジルからラルフは頭いいって聞かされてたけど、こんな推測までできるなんて……私には思いつかなかった。
「んじゃそろそろいくか。ティアナとクレアもなんかくたびれてるみたいだしな」
……いや、アイスを嬉しそうに食べてるんですが。
ク、クレア……いつの間に。
私も食べたい!
そう思った私はアイスを買って、みんなと一緒に食べることにした――