Section51
Teana
「これって……!」
ルーシェちゃんが驚いた様子で声を上げる。
「どうしたの、ルーシェちゃん?」
何に驚いたんだろう。
ルーシェちゃんが見てる先には一台のピアノがあった。
「――それは、エルナ・ラインブルクが弾いていたピアノなんだ」
そう言ってピアノの後ろから出てきたのは、ジルだった。
「……」
あまりの驚きに声が出なかった。
そんな私に構いなくジルは続けた。
「運がよかったよ、ちょうど修理がこの前終わったばかりなんだ」
……あれから、200年もたってるのに。
普通ならこんな木のピアノなんて壊れてガラクタになってるはずなのに。
「いやー本当に良かったよ、これでコンサートの引き立て役も揃ったわけだね」
「ティアナ、よかったね!」
唖然としてる私にルーシェちゃんとジルが声をかけてくれる。
「もう一度このピアノに会えるなんて、弾けるなんて思ってなかったよ……」
「これも一つの運命かもね、ティアナ!」
「うん、ルーシェちゃん!」
早くこのピアノを弾きたいところだけど、みんなが集まってなかったんだよね。
こんなにうきうきする気分は久しぶり。
「ルシェルナのピアノはこっちにあるから、よかったら使ってね」
「ありがとう、2台もピアノあるなんてすごいね!」
「アルフォンスがお金持ちだったらしいからこの家にはピアノが結構あるんだ、あんまり先祖のことはわからないけどね」
ジルの言うことは確かにそうだよね、あれから200年もたってるんだもん。
だってあの時には200年も後のことなんて想像すらしなかったしね。
「じゃあ僕はみんなを呼んでくるよ、ルシェルナとティアナは準備してて」
「わかった!ティアナ早速準備しよう!」
「うん!」
そう言って私はあのピアノの前に座る。
……椅子とかは違うし、ピアノ自体もだいぶ修繕されてるからちょっと印象は違うけど、でもやっぱり私がいつも弾いてたあのピアノだった。
それは鍵盤に触れてみるとよくわかる。
今のピアノと違って鍵盤が象牙で出来ているから、引き心地が違うんだよね。
「ティアナ、エルナみたい」
ふと、ルーシェちゃんに言われる。
「――え?」
「ううん、なんとなくなんだけどね、なんか今の表情がエルナっぽかったなって思って」
「そうかな……?」
でも懐かしさはやっぱり感じてるし、そう見えてもおかしくなかったかもしれない。
「なんだか不思議だよね、私の感覚はシエラでもあるしルシェルナでもあるって思うような感じなんだ」
それはちょっとわかるかも。
「……うん、私もだよ。ええと、ええとだんだん混ざり合っちゃってる気もするんだけどね!」
「混ざってる……そうかもね、なんかラトフィアのあの場所で思い出してから、少しづつだけど記憶が薄れてきちゃってる感じもするんだ」
言われてみるとなんとなくエルナの記憶が薄れてきちゃってる感じはするかもしれない。
……このまま、忘れちゃうのかな?
それは嬉しいような悲しいような、複雑な気持ちになる。
でも――
「ルーシェちゃんはこの記憶をずっと忘れないでいたいって思う?」
「……そうね、だってせっかく仲直りできたんだし今は覚えていたいって思うかな」
――そっかぁ。
やっぱりルーシェちゃんも私と同じ気持ちだったんだー。
なんだかちょっぴり嬉しい。
「でもルーシェちゃん、ちょっとづつこの記憶が薄れてきちゃってる感じがしない?最近ね、私よく思うの」
「……確かに、それは私も思ってた」
「私たちのこの記憶って、いつかは忘れちゃうのかな……」
「わからないけど、本来は記憶になかったものだもんね、あそこでフラッシュバックして流れ込んできたみたいな感じだったし」
私にもルーシェちゃんにも、この記憶がどうなるかわからないけど、やっぱり覚えていたいなぁ。
……と考えていたら。
「二人とも、準備できた?みんな呼んできたよ!」
……ジルとみんなが来た!
じゃあコンサートの始まり始まりー!