Section8
Lucerna
クラクスの駅でクレアたちと別れてから、私たち3人はクラクスの歴史資料館に来ていた。
ここには、さまざまな資料が展示されている。
ミネラドロワの成り立ちとか、グリス領時代のこととか、私の興味のあることばかりだった。
「ルーシェは何を調べているんだ?」
気づくと、ラルフに話しかけられていた。
なんかラルフはいつも唐突だなぁ。
「私はジルと同じく、シュヴァルツのアルジェント攻略の謎を調べてるよ」
「そうか、じゃあミネラドロワの成り立ちとかには興味ないのか?」
「あ、そんなことないよ!歴史に関することなら大体好きだし。ただ、なんかちょっと難しいというかわかりにくいと言うか……」
そう言うとラルフは私の事を見ながら資料を片手に話し始めた。
「この資料あるだろ?これを解釈すれば、ミネラドロワって言う国はその豊富な資源で対立を避けていたんだよ」
そっか、資源が豊富ならそれを元手に交易とかすればいいもんね。
それに確か、ミネラドロワの両隣には今統一しているシュヴァルツとブロンシェルっていう大きな国があったはず。
「ブロンシェルとシュヴァルツは200年前の戦争、アネクシオン戦争の前に……そうだな、ええと250年前にも大きな戦争があった」
「え?そうなの?」
「ああ、250年前にもシュヴァルツとグリス、ブロンシェルとアルジェントで戦争をしていた」
……あ、本当だ、ここに書いてある。
ラルフは話を続ける。
「その250年前の戦争はアグレシオン戦争といってシュヴァルツとグリスが勝ったんだ」
当時はラミールって言う国がアルジェントとシュヴァルツの間にもうひとつあったみたい。
でもラミールって200年前の戦争の時にはなかった……よね?
「ラミールってどんな国だったの?」
「ラミールは当時銅の国と呼ばれていた、シュヴァルツは黒の国、グリスは灰の国、ミネラドロワは金、ブロンシェルは白、アルジェントは銀だな」
「……そうなんだ」
ラルフ、よく知ってるんだなぁ、もしかしてジルよりも詳しかったりして!
でも、質問の答えにはなってないような……
資料を目で追ってみるとラミールの記述と今までの地図があるのを見つけた。
時を追うごとに地図が変わっていき、最後はシュヴァルツによって統一されているのがわかる。
ラミール自体はさほど大きな国ではなく、シュヴァルツとアルジェントの間にあったみたい。
当初、戦争が始まった際はブロンシェルとアルジェント側につくと思われていたラミールは、当然シュヴァルツ、グリス側に味方したと書いてある。
この謎は解明されていて、当時のラミールの上層部とシュヴァルツ側とが内通していたのが原因らしい。
結局、ブロンシェルとアルジェントは予想とは打って変わったので混乱して、一気に敗戦してしまったという話だった。
「ブロンシェルは戦争中に完全に破壊されて、今でもその爪あとが残っている地域がある」
私が目に通している資料を見てか、ラルフが疑問に思っていることについて話してくれた。
「……今も?」
「ああ、アネクシオン戦争は相当悲惨だったと書いてあった、特にシュヴァルツがアルジェントに仕掛けた電撃戦は残忍だったらしい」
「電撃戦……だったんだ」
――私が歴史の授業とかで習った際は、ひとつの戦争としてでしか教えられなかった。
大抵授業などでは、そこにある様々な理由とか要因とかそういったもののまで細かくは教えない。
ただ、そこにそういう事象があったに過ぎない、と教えられるだけ。
ひとえに200年前の戦争といっても、その中にはさまざまな戦いがあって、それぞれ違う重みを持っている。
ジルが熱心に歴史のことを調べているのもそういうことがあるのかな、と少し思った。
「ジルはその謎を追っているんじゃないのか?なぜシュヴァルツがいきなり電撃戦を仕掛けたかって言う……」
「あれ……そうだっけ?」
私はアルジェントがどうとかって話は聞いていたけど、そんなに細かい話だったんだっけ。
なんかジルのことがまた一つ知れた気がする!
あれ、それじゃあラルフは何を調べているんだろう?
……ちょっと聞いてみようかな。
「そういえば、ラルフは何を調べてるの?」
「俺は何かを調べているってわけじゃない、ジルと同じくアネクシオン戦争の謎には興味あるけど、熱心に調べてるって程でもないな」
「じゃあ私と同じで歴史全般が好きな感じなの?」
「まあ、簡潔に言えばそんな感じだ、こうして歴史資料館にも来てるしな」
へぇー、なんかラルフとジルは仲いいから一緒に何か調べてるのかと思ってた。
また一つ意外なことを知れた気がする。
(――あれ、そういえばジルがいないけどどこいったんだろう……?)
まあ、ジルはしっかりしてるから変なことにはならないだろうけど……って。
「……おい、何だよジル。ここは資料館だぞ、静かにしろって」
「これが当時の文章かー!ラルフちょっとこれ見てくれって!」
……。
――なんかティアナ思い出したのは私だけ?
一緒にいると影響されるのか、話し方もティアナそっくり。
ジルも自分の好きなことになるとティアナ化するみたいだった。