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セントラル

影の男の性欲解消

作者: A99

 宇宙は無限に存在し、無限に存在する宇宙を膜が包み一つの世界を作り出す。そんな世界もまた無限に存在することで、全ての世界は成り立っている。

 時間で、意思で、可能性で、あるいはそれ以外で宇宙は常に増え続け、その分だけ世界もまた増えている。無限を超え、更に無限を超え、更に更に無限を超え、いつでもいつまでも世界は常に増え続ける。

 ならば、宇宙の始まりはどこにある。世界の始まりはどこにある。

 それが、ここにあった。

 そこには、あらゆる全てがあった。

 人があった。地面があった。空があった。宇宙があった。空間があった。時間があった。世界があった。因果があった。知識も、知恵も、可能性も、事実も事象も矛盾も存在もそれ以外も。

 ありとあらゆる全てがそこにはあり、ありとあらゆる全ての始まりがそこにはあり、ありとあらゆる全ての終わりがそこにはあった。

 宇宙とは、世界とは、ここから漏れでた破片で構成されているのだ。ありとあらゆる全ては、ここから流出した欠片で作られているのだ。

 名前をつける必要はないけれど、そこには名前があった。

 『セントラル』。

 そこは、ありとあらゆる世界の中心。そこは、ありとあらゆる全ての始まりにして、ありとあらゆる全ての終わり。そして、あらゆる全てを覆うもの。

 ありとあらゆる全ての中では、ありとあらゆる全てが起こる。


 ◆


 ありとあらゆる全ての中にそれはいた。

 影だ。影がいる。影の男だ。影の男がそこにはいた。

 影の男は考えていた。

 性欲を解消したい。

 理由はない。思いついたからだ。解消する必要もないけれど、解消しない必要もない。

 ならば、影の男は性欲を解消することにした。

 影の男は考える。どうやって性欲を解消するか。

 自慰はつまらない。そんなもので性欲を解消しても、どこかむなしいだけだ。

 やはり、何かを使って性欲を解消したほうが、むなしくないし面白い。

 何を使おう。やはり女か。女を使うのが一番か。

 影の男はやってみた。人の女を作って、性欲を解消してみた。

 でも、なかなかうまくいかない。影の男は人ではないし、人の女は影ではない。

 だが、なかなか気持ちよかったのは確かだ。自慰では味わえない充足感を、影の男は感じていた。

 女性器の存在だろうか? 影の男は、今は男性だ。もちろん、男性器が付いている。女性になることも出来るけれど、今は男性だ。

 男性器と対になる女性器の存在が、充足感を感じさせているに違いない。

 とりあえず、影の男は人の女を殺してみた。それから動かしてみるけれど、今度は何も感じない。

 むなしいだけだった。

 人の女は、死んだ瞬間に物になった。人ではなく、物になった。生命がないのだから、それは既に無機物だ。

 なるほど、ならば生きていればいいのかもしれない。それならば、人である必要もない。

 影の男は色々と試してみた。

 魚、猫、犬、泥、空気、惑星、宇宙、世界。

 色々なものを使ってみた。色々なものを女性器にして、性欲を解消しようと試みた。

 素晴らしい充足感だった。満ち足りることが出来そうだった。

 だが、満ち足りない。後一歩が足りない。何かが一つ、足りなかった。

 影の男は考える。何が足りないのだろう。

 対であること。命があること。これだけでは足りないのだ。なら、あと一つは一体何か。

 影の男は考えついた。そうだ、何故これが抜けていたのだろう。

 対であることは大切だ。命があることも大切だ。

 でも、自分が今まで試していたのは何だ。

 人で、魚で、猫で、犬で、泥で、空気で、惑星で、宇宙で、世界で。

 全て、自分と違うものじゃないか。

 ならば、自分と同じであればいい。

 影の男は作り出した。少し困難だったけれど、それでも何とか作り出した。

 自分と同じで、自分と対で、そして命がある。

 影の女がそこにいた。

 早速入れてみた。

 ああ、何と素晴らしいことか。

 影の男は満ち足りた。

 一つになるような一体感。全てを感じ取れるような全能感。

 今、影の男はまさしく全てにおいて満ち足りていた。

 自分と同じで、自分の対になる影の女。ああ、彼女は素晴らしい。

 一つになるとは、何と素晴らしいことなのだろう。

 素晴らしき時間もいよいよ終了だ。自らを彼女に解き放つ瞬間が迫っている。

 今こうしている瞬間も、自分は満ち足りている。放出すれば、壊れてしまうのではないだろうか。

 影の男は怖かった。しかし、その魅力に抗うことが出来ない。

 今か今かとその瞬間が迫る。自身が脈動し、解き放つ瞬間を待っている。

 そして、それは訪れた。

 幸福だった。

 満ち足りたその先にあったのは、全てを愛する幸福だった。

 幸福すぎて、幸福すぎて、ああ、これ以上は言い表せない。

 ありがとう。ありがとう。

 影の男は、自分がいることに感謝した。影の男は、影の女がいることに感謝した。

 世界に感謝を。存在に感謝を。ありとあらゆる全てに感謝を。

 そして、全てに愛を。

 影の男の愛が世界を覆う。余波で宇宙が億単位で消滅したが、それ以上に愛が世界を覆った。

 ありがとう。そして、愛している。

 影の男は全てを愛した。愛して、愛して、愛して。

 そして、少しだけ疲れた。

 影の男は微睡んで、影の女は微笑んで。

 そして、影の男と影の女は、幼い子供のように少しだけ眠った。

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