ファイル07 公爵令嬢と魔導具《マギ・ツール》 ~動き始めた事件~
お久しぶりです。
遅くなってしまってすみません。
ようやく事件が動き始めたと……思います。
ヒューイ達一行は、ヒューイの父であり魔導の優れる英国の国公認の数少ない魔導具巨匠の中でも当代一の腕前と目されるマナの厚意により、「魔術用品店」店内でも関係者以外立ち入り禁止のマナの工房へと来ていた。
「ここで、あの憧れの魔導具が作られるのか……」
とはアンディがポロリと漏らした言葉。
それに、何やら工具を使って魔導具の一部部品を微調整しながら答えるマナ。
「そうです。
まぁここでは、作成よりも修理の方が多いですがね。
ところで、皆様のお名前をお聞きしたいのですが……
よろしいですかな?」
といって、今までずっと休めなかった手を止め、後ろに立つ一行へ振り返る。
その言葉でアンディが一歩マナに近づく。
「俺は、アンディ・スチュアートです。
いつも親父たちがお世話になってると思います」
「ここは俺が!!」とばかりに率先して自己紹介したアンディの言葉を聞いて、マナは今気づいたように、
「あぁ!
君が話に聞くアンディ殿でしたか……
ええ、いつもスチュアート家一門様には贔屓にしていただいていますよ。
なるほど、君がスチュアート家噂のあの四番目の御子息なのですか……
どうぞこれからも親子ともどもよろしゅうお願いします」
と一部意味深な呟きを交えつつも驚きを隠そうともせずに応え、頭を下げる。
それにアンディは、
「こっちこそよろしくお願いします」
とマナの意味深な呟きには一切触れずに返す。
アンディとマナのやり取りに区切りがついた所でヒルダが口を開き、
「私はヒルダ・レヴィです。
記者をしていまして、主に週刊誌『ヘブンス・ウィザード』内の記事などの取材を担当しています」
と言う。
「『ヘブンス・ウィザード』は勿論、毎週楽しみに拝見させていただいております。
ここで出会ったのも何かの縁でしょう。
ヒューイともどもよろしゅうお願いします」
とマナは返す。
それに、
「あのマナ・リードさんにいつも読んでいただいてるなんて……
とても光栄です!!
こちらこそよろしくお願いします」
にこやかに返すヒルダ。
エレンもそのやり取りを微笑ましく眺めている。
しかし、一人だけ顔をしかめている人物がいた。
それは、ヒューイだった。
一連の和やかなやり取りの最中もずっと憮然とした表情だったヒューイが、ここにきてようやく口を開く。
「……父上。
なぜ、今日ここにいるんですか。
今日は別の工房にいるはずでは――――」
ヒューイは正直に言って、あまり父がマナ・リードであると知られたくなかった。
あくまで、普通より少し優れているくらいの自分は飛び級のせいで今でさえ色眼鏡で見られやすい。
それなのに、親がよく知られた有名人だなんて知られれば、本来は寄せられなくていいはずの余計な好奇の目線を寄せられることになる。
それはつまり、普通の生活をし辛くなる。
そもそも最近のヒューイは父と母との血の繋がりを疑っていた。
自分があまりにも父と母に似ていないのだ。
髪色も瞳の色も違う。
目鼻立ちも髪のクセも何もかも。
それに、父のように魔導工学系が得意なわけでもない。
むしろ自分はそういうサポートよりも、戦場に出て戦う為の攻撃系魔導の方が得意だ。
母は特殊な才能が必要と言われている治癒魔導が得意だが、その才能も父の才能同様に自分に受け継がれている気配がない。
こうして並べてみると、拾い子だと言われたら納得できる要素しか目につかない。
何度、このことについて問おうとしたことか。
でも両親は、その度にわざと話題を変えてしまう。
何かがあるのは分かるがその先が分からない。
それは余計に、ヒューイに両親への不信感を募らさせていた。
故に近頃では、両親へ反抗期のような態度をとってしまうことも良くあった。
「ヒューイ、今日は急にこちらで仕上げてほしいという依頼が入ってね。
しかも、ヒューイが来るって連絡もあったしね」
しかも言葉とともにマナの視線はエレンへと向かっている。
どうやらこの状況を作ったのはエレンらしい。
無性にイライラしてくる。
だが、さすがにこれから級友となる者へイライラをぶつけるのは得策ではないと思い、
「はぁ……
とりあえず、僕の父に関しては三人とも黙ってて下さいね」
ヒューイはなんとかイライラを押さえ込み、とりあえずは他言無用とはっきり言っておく。
その後一行は、マナの手によって修理された魔導具を眺めたり、魔導具の核となる「魔女の魂」を見たり、マナの説明を聞きながら工房見学をしたのだった。
******
「う……んっ」
アリスは真っ暗なところで目を覚ました。
「……ん?」
そして何か、違和感を感じた。
声は出るのに、口が動かない。
よく自分の状態を確かめれば、何故か手足が拘束されている。
どうやら猿轡をされているようだ。
という自分の状態からアリスが連想することはひとつ。
(……私は、誘拐されたのね)
だった。
「起きちまったのか、小娘。
だがなぁ、まだおネンネしててもらわにゃならんのよ」
そんな声が真っ暗な空間のどこからか聞こえてくる。
刹那。
バチィッ!!
一瞬、暗闇に小さく青白い稲妻が走る。
「んんっ!」
その稲妻が体に走らせた衝撃に、ビクッと全身を痙攣させるアリス。
「んぅ……」
「まだ足りねぇか……。
しっかしなぁ、あんまりキズモンにしちゃいけねぇって指令だしな……」
アリスが完全に意識を失っていないことを見抜いたのか、先程の声の主が呟く。
声から察するに男性のようだ、と薄れつつある意識の中でアリスは思う。
「おい、オベド。
アル様からのご連絡が来たぞ」
「アイザック、内容は?」
(えっ、アル……?
まっまさか……そんな…………)
アリスの薄れていた意識が急速に覚醒した。
後から現れた男・アイザックの口より出た名前を聞いたことによって。
その名前に対する動揺を隠せない。
今のアリスにとって、隠せないのも無理はない。
偶然の一致であってほしいと願いつつ、思考は悪い方へと流れて行く。
体中から嫌な汗が噴き出す。
嫌な予感しかしない。
お願い。
この胸騒ぎは嘘だと言って。
そんなアリスの必死の願いは虚しくも、次に聞こえてきたアイザックの言葉に打ち砕かれる。
「アル様より、アリス・マクファーレンを大物を釣る為のエサにしろ、と」
******
所変わって、こちらは王宮内にある王の執務室。
「エルザ様!!
大変でございます!」
「何事ですか、ミア」
そこへ息を切らして駆けこんでくるひとりのメイド。
エルザからミアと呼ばれた彼女はメイドだが、王であるエルザ本人から愛称で呼ばれているだけあって普通のメイドではない。
彼女は王宮の前に捨てられていた捨て子であり、エルザにとっては自らが育て上げた娘のようなもの。
実際、エルザの双子の妹であるエキドナの三人息子のうち、王宮で育てられた末っ子と実の兄妹のようにして育った。
しかも、普通に育てられた訳ではない。
日々、厳しい訓練や鍛練を欠かさずに続けている。
故に、そこらへんの騎士や魔導士なんかより剣術も魔導も強い。
加えて彼女は、その鍛練や訓練のおかげで余程の事態に直面しない限り、慌てふためくことはない。
だからこそ、その慌てぶりにタダ事ではないと察したエルザは、
「落ち着いて話しなさい、ミカエラ・アルバート」
とりあえず落ち着かせるために、あえてフルネームで呼ぶ。
「……っ!
はっ、はい。
失礼いたしました」
「落ち着いたのなら、良いです。
さて、ミア。 あなたがそんなに慌てるということは何かあったのですね」
「はい、エルザ様。
実は、マクファーレン公爵家の御令嬢が……」
落ち着きを取り戻したミアは、エルザをしっかりと見据えて伝える。
「何者かによって、誘拐されてしまったようです」
一体、男達の目的は何なのでしょうか。
たぶんまだ次回は明らかになりません!(←えー……笑)
では、しばしのお付き合いを!!
感想等、いつでもお待ちしております。