ファイル06 公爵令嬢と魔導具《マギ・ツール》 ~魔導具巨匠《マギ・ツール・マスター》~
一年以上時間が空いてしまいました。
なかなか忙しくてパソコンから遠のく日々を過ごしていたもので・・・
まだ事件のとっかかりすぎるのですが、しばしお付き合いください。
「おお、これはこれは……
アレキサンダーのエレン嬢ではないか。
お久しゅうございますな」
店に入って早々、ヒューイ達一行は声をかけられた。
声のトーンからするに、壮年の男性だろう。
この店の店員なのだろうか。
そう思い、声のした方を振り返った、ヒューイは目を疑った。
「あっ、あなたは……」
そう言いかけたヒューイの言葉は全て、声になる前に別の声にかき消された。
「ああっ!!
あなたは、国が魔導具巨匠と認めた数少ない魔導職人の……」
『マナ・リード?!』
アンディとヒルダの驚きの声が重なり、響き渡る。
それだけで周囲の客が数人、驚いた表情で振り返る。
しかし、一行にそんな事を気にするような常識者は誰一人としていなかった。
そんな中でもマナは、学生なのに自分の名前を知っているアンディなどに対し感心するというような顔で頷きつつ、
「ご名答。
お若き少年、そして、麗しき淑女……
私が、マナ・リードだ。
この店で魔導具の作成、修理を請け負っている」
穏やかな表情のまま、一行へ向けて自己紹介をする。
そしてヒューイを見て微笑み、
「ヒューイ、高校初日から早速友達ができたのか。
父さんにも紹介してくれないか」
という。
それに一行は驚く。
しかし、
「父上、なぜここに……
今日は確か、別の工房の方にいるのでは……?」
ヒューイは、マナがここにいるのに対し驚いているようで。
「ええっ?!
ヒューイは、マナ・リードの息子?!」
やっとエレンが現実復帰し、その事実を確認するかのように声に出す。
それに、マナは「しまった」という顔をしてから咳払いをし、
「いやぁ、申し訳ない。
皆様は知らなかったようで……
今言われたように、ヒューイの父でもある。
エレン嬢、お若き少年、麗しき淑女……
ヒューイともどもよろしゅう」
と、一行に向けて頭を下げる。
そこまで言った時、マナはこの会話のせいで自分達が周囲の注目を集めてしまっているのに気づき、
「では、立ち話も何なので……
この用品店の工房にいらしては如何かな」
と、工房見学を提案する。
それは、普段立ち入ることのできない場所の見学という願ってもない申し出で。
もちろん、アンディもエレンもヒルダも顔を見合わせて、二つ返事で了承した。
ただひとり、ヒューイのみ複雑な表情をしていたのだが、一行はそれに気づかずマナの工房へ向かった。
******
そのころアリスは、ヒューイにかけられた認識阻害 の魔導が解けたことでようやく冷静さを取り戻し、「魔術用品店」へと足を踏み入れていた。
だが、時すでに遅し。
もうヒューイ達はマナの工房へと移動しており、店内に姿は見えなかった。
そこで、探査の魔導を使おうとするが――――。
なぜか魔導が発動しない。
「……なっ、なんで?!」
ちゃんと、魔力は魔法陣を描く指先にまで充填されている。
魔法陣も綺麗に描き出されている。
それなのに、魔法陣から探査用の使い魔が出て来ない。
「……リ、リィちゃん?
なんで出てこないの?」
使い魔の名を呼んでみるものの、何の変化も訪れない。
それもそのはずだ。
アリスが知らない内に、アルがアリスの使い魔を行動不能にしていたのだから。
それはアルの悪戯なのか、それとも。
今はもう、アルの本心など本人以外知らない世界の闇へと消えてしまっている。
使い魔が行動不能になっているその事実に気づかないアリスは、余計に焦る。
そして、原因不明な発動妨害を受けていると錯覚する。
それはもう、アルの思うツボなのかもしれないが、アリスがそのことを知るはずもない。
仕方ないので怪しまれないように気をつけながら、アリス自身が店の店員にヒューイを見なかったか聞いてみた。
するとどうやら工房見学をしているらしかった。
さすがに公爵令嬢とはいえども、アリスの力だけでは一般人が入れない工房へ入り込めない。
そこで、店の外に出て妹に指示を仰ごうと考えたアリス。
店の脇にある細い裏路地へアリスが移動した矢先、視界が突然真っ白に染まる。
何が起こったのか理解できないまま、アリスは一瞬にして意識を失う。
そのまま、地面に倒れる。
気を失ったアリスを手早く黒い袋に詰め込み、車に乗って連れ去る一人の男。
男の手首には、アリスの妹・アルが配下に与えている物と似たような呪具が巻かれていた。
******
これが、ヒューイがこれからずっと付き合う仲間となるアンディやエレン、ヒルダと組んで解決するために奔走する初めての事件のはじまりだった。
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