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ファイル05 魔導具《マギ・ツール》と公爵令嬢 ~序章 Ⅲ~

まだまだ、序章から抜けません(汗)


しばし、お付き合いを・・・。

「そうなの・・・

 ヒューイ君は全科目一位・・・」


と感嘆の溜息交じりに呟くのは、成り行きから一行に同行している記者、ヒルダ・レヴィ。


人気週刊雑誌『ヘブンス・ウィザード』で記事を書いている、今人気ナンバーワンの売れっ子記者である。


そんな彼女が驚いているのは、ヒューイの中学時代の成績である。


「全教科一位とか・・・

 しかも、魔導学で、理論・実技、魔導具に関する工学的分野も全て、教師も文句なしの満点か・・・

 それは、国も飛び級を許可するわけね。

 これじゃあ、教師達もまるで歯が立たないわね」


と、うんうん頷く。


「何だかんだ言っても、やっぱり天才は天才よね・・・。

 このおバカさんとは、出来が違うわ」


とエレンもヒルダに乗っかり、アンディを横目に見ながら、茶化ちゃかしてくる。


エレンに馬鹿にされたアンディは、


「その頭、なんとか俺にも分けてくれよ」


とか、情けなさすぎる声をあげている。


ヒューイは依然として、仏頂面ぶっちょうづらで、


「別に、そんなにすごいことではないだろう。

 しかもこれは、中等部での成績。

 高等部でもそういう成績がとれるとは限らない。

 あれぐらいなら、普通、満点をとる者が数名でてもおかしくはないだろう。

 まして、高等部ほど難しい問題ではない」


 それに、いずれは国の為に命を捧げる魔導士になるのだ。

 より、強い魔導士になるのならば、知識もそれなりに無いとやってはいけない。

 少しでも、国の為に役立ちたいと考えて勉強すれば、と思っている。


そのトゲのある言葉は、よわい14の子供とは思えない雰囲気をかもし出している。


まるで、


「こういう成績がとりたくてとってるんじゃない」


とでも言いたげな印象さえ受ける。


でも、アンディはその雰囲気にさえ気づかずに、


「でも、なんでそんなに謙遜けんそんするんだ?

 そんな点数、いくら国の為とかいって勉強したってよ、お前じゃねぇと、とれねぇぞ?」


と言ってくる。


ヒューイは、首を振って否定する。


「いいや、誰にだってできる。

 でも、皆、僕が天才だという。

 そうやって、偽りの称賛を並べて近づいてくる者も・・・・」


と言う。


どうやら、その瞳から察するに、相当、凄惨せいさんな出来事を経験してきたのかもしれない。


と、記者をしているヒルダだけは、職業柄もあり、気づいた。

記者ならば、そういう過去を持つ人への取材というのも少なくない。


いや、記事にして注目を浴びるのは、大抵、そういった関連の物が半分以上を占める。


そういう、記者としての経験からすれば、凄惨な過去を持つ者とは、大体、似たような瞳をしている。


そう、瞳で何かを語りたがるのだ。


今、目の前にいる、天才ヒューイ・リードも、まさにそういう瞳をしている。


そこで、ヒルダの心の中に、葛藤が生じる。


やはり、彼女は記者だ。

若い彼女を一流記者にまで押し上げた原動力である「好奇心」。

その「好奇心」は、一流と言われるようになった今も、彼女を記者として支えているという事だろうか。


(彼には一体、何が・・・)


しかし、そこはやっぱり大人である。


ヒルダは、心に生じた「探りたい」という思いを、なんとか抑え込み、心の葛藤に終止符を打った。


「でも、いくら謙遜しても、明らかに、ヒューイ君の才能は常軌を逸してるわ。

 少しは素直になったっていいと思うわ。

 別に、誰も怒らないわよ」


と、諭すように言ってみるヒルダ。


それに、


「・・・・。

 ・・素直さなんて・・・」


と、ヒューイが小さく呟こうとする。


それは、普段、ヒューイが隠してる本心の一部。


ヒューイの理想の魔導士像は、高校生が思い描くのとは大きく違う。

そういう自覚はもちろん、本人が一番もっている。

しかし、それが現実なのだということも一番よく知っていた。


魔導士とは、国の為、「王」の為、そして一般人の為、強くあらねばならない。


それが、天から魔導の才を授かりし者の宿命。


それが、尊敬、畏敬いけいの念をあつめる魔導士の義務。


そんなこともできないなら、魔導士にならないほうがいい。


ヒューイはそう思っている。


いや、あのときの戦場でそう思い知らされた。


覚悟が無ければ、戦場ではやっていけないと。


ヒルダには、ヒューイが呟きかけた言葉は全て聞こえていたが、アンディとエレンが気づいた様子もなく、最初にヒューイから「探るな」と言われていたのもあり、深く追求はせずに、


「到着ね。

 みんなは何を買うの?」


と、普通に、聞きたかったことを聞く。


その質問には、エレンが一番早く答える。


「私は、学校に必要な物と、この店の店主に挨拶しに来たんです。

 あと、親の魔導具マギ・ツールの買い替えに」


と。


アンディは、


「俺は、エレンが魔導具マギ・ツールを買い替えにいくからってんで、後学のために見学ですかね。

 ついでに、親父たちが、営業で使う物で、丁度切らしていた物を調達も兼ねて」


と、答える。


ヒューイは、


「アンディとエレンに無理矢理、連れて来られただけです。

 僕は、必要な物は全て、もう昨日のうちに揃えましたから」


と、さっきよりは少し明るめな表情に戻った顔で、答える。


いや、どちらかと言えば、かえって少年らしい、ふてくされ気味な顔である。


三者三様な返答に思わず、


「ふふふ。

 おもしろいわね。

 それぞれに得意分野がありそうね、3人とも。

 あなた達って、きっといいコンビになるわ」


と、少し笑いながら言うヒルダ。


それに、ヒューイは、


「僕は、単独での戦闘の方が得手です」


ふてくされつつ、冷静な態度を失わずに返答する。


そういうところはきっと、ヒューイが年下だと証明している。


他のふたりといえば、そのヒューイの表情が、珍しく年相応なので、微笑んでいる。


その構図はまるで、一番下の弟が、背伸びして、


「もう大人だもん」


と言っているのを、やさしく見守る姉と兄みたな感じである。


少なくとも、ヒルダにはそう感じられた。


ヒルダは思う。


ヒューイには何か、人を惹きつける隠された魅力があるのだと。


まるで、エキドナ様や「王」エルザ様に似たような・・・・何かが。


それはきっと、将来、この少年が何かにぶち当たったとき、大きな力を与えるだろう。


いや、この国にとって、この少年は欠いてはいけない、大切な人物になるだろう。


そんな漠然としたモノが浮かんでくる。


しかし、今はそれ以上わからない。



だが、そこでその思考をやめる。



ヒルダにはたった今、気づいたことがあった。


だから、3人に、

「さ、中に入りましょう。

 いつまでもここに立っていては、通行の邪魔になるし。

 それに、どうやら、あとをつけてきている邪魔者もいるみたいだから」


と、店に入るように促す。


どうやら、(ヒルダ自身、今まで気づかなかったが)この3人は、何者かにあとをつけられているようだった。


いち早くその事を察知したヒルダは、相手に感づかれないように、自然な成り行きで振り切ろうと思い、店へ入るよう、促したのだ。


それにヒューイの顔つきも険しくなり、


「確かに、あとをつけられているようですね。

 一体、何が目的なのかわかりませんが。

 僕達のように普通な高校生・・まあ、確かに、魔導に携わるだけで普通ではない、か。

 貴族の手下だろうな、尾行なんて手法をとるのは。

 僕達のような、俗に言う見習い魔導士をつけても、得する事なんてないはず」


と言うなり、魔導を発動する。


かなり静かに。


誰にも気づかれないように。


発動に気付いたのは、ヒルダのみ。


2人は気づかない。


実は(後で判明するのだが)そのとき、エレンは気づいていたのだが、知らぬふりをしていた。


ヒルダは、その無駄のない魔導の動かし方を知っていた。


それは、エキドナに信じられない程に似ていた。


いくら天才でも、たった14歳の子供にはとても難しすぎる高等テクニックのひとつである。


記者のヒルダなら、職業柄、さまざまな有名魔導士を取材している。


もちろん、戦場の取材なんかもこなしてきた。



だから、余計に、そのすごさがよく分かる。



「・・・『無詠唱・無動作発動』なんて・・・・」


そう呟きたくなるのも無理はないのだった。


ヒルダ達のことを完全無視のヒューイは、魔導の構築を終える。


本来、学校や訓練所、その他、国が許可した場所以外では魔導の行使は法律で禁止されている。


しかし、ほとんどの場合、「無詠唱」と「無動作」の発動ができる者が法律違反であるのを認知の上で魔導を使用している。


それは完全な法律違反なのだが。


今回のヒューイ達の様に、身を守るための正当防衛ならば、法律違反にはならない。


特に、今回構築した魔導は、敵の認識を攪乱かくらんさせるもの。


ダメージはないに等しい。


一時的に、脳内信号を乱し、視覚と聴覚に誤作動をもたらすのみ。


一定時間経過すれば、自然と回復する。


もちろん、その魔導術による周囲への影響や、被害はない。


故に、法律には違反していない。


ヒューイなら、この程度のことは造作も無いのだ。


しかし、周囲への被害に限っては、かけられた本人が暴れたりすれば、話は別だが。


だが、ヒューイは相手がそんなことはしないだろうと踏んでいた。


人目につかない裏道を、わざとつけてきたのだ。


人目につくようなことをすれば、当然、尾行対象に気づかれる。


そんなこともわからないほど相手も馬鹿ではあるまい。


おそらく、相手は貴族の手下か何かだろう。


もしかしたら、ヒューイが高等部に上がってしまったら不利益が生じる者が背後にいるのかもしれない。


しかし、ヒューイには、そのような相手はまったく見当もつかなかった。


しばらく考え込んでいると、


「ほら、ヒューイ君も早く!!」


とヒルダに腕をつかまれ、せかされつつ、店内へと入って行く。


******


「どうして」


そう独りごちたアリス。


完璧に気配は消していた。


今まで尾行してきた対象にも、一度だって気づかれた事はない。


貴族の娘とはいえ、妹・アルの「お願い」によって、様々な身分の者を尾行し、情報を盗む経験を積まされてきた。


なのに、今回は尾行にあっさり気づかれたらしい。


それは、アリス自身に認識攪乱の術がかけられたことからも察知できた。


と、そのとき、


《姉上~

 尾行はうまくいってるかい?》


と少しおどけた声が、身に付けた通信機から聞こえてくる。


それは、今のアリスにとって、最悪の状況での通信。


なんとか動揺を隠し、いつもの声を装って、


「ええ、うまくいってるわ。

 ところで、なんでヒューイ・リードなの?」


と、返答する。


少しでも、動揺が伝わらないように。


《ん?

 あれ、姉上、先月尾行してもらった対象からの情報に書いてあった、国家魔導士名簿、覚えてないの?

 ヒューイ・リードは・・・》


とそこでアルは一度言葉を切る。


それだけで、ヒューイ・リードが何者なのか見当がつく。


つまりは、世間に秘匿された最年少の国家魔導士なのだ。


アリスの父親は反王派で、「王」に水面下で反旗を翻す、反逆の貴族。


ヒューイ・リードは、おそらく、「王」と面識があるだろう。


その情報から、親王派の勢力を崩す糸口を見つけるつもりなのだ。


「じゃあ、これは父様が?」


と聞いてみる。


《うん。

 そうだよ。

 さすが、僕の姉上。

 察しがよくて助かるよ》


と上機嫌に答えるアル。


どうやら、機嫌を損ねはしなかったようだ、と胸を撫で下ろすアリス。


「じゃあ、尾行を続行するから・・・」


と通信を切る。


完全に切れたことを確認し、大きく息を吐き出す。


そして、再び、ヒューイ達が入って行った店へと目を向ける。


自分が尾行されてるとも知らずに、ヒューイ達の尾行を再開したのだった。


全然、話が進まず、忙しかった為、更新が遅れてしまいました。


申し訳ありません。

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