ファイル03 魔導具《マギ・ツール》と公爵令嬢 ~序章~
サブタイトルと内容がかみ合ってないような気もしますが、お許しください。
「おい、ヒューイ!
お前、よく、あんな抱負を思いつくよな~」
と、ヒューイは、左隣にいる男子に声をかけられる。
今は、丁度、進級式が終わり、教室に帰ってきたばかり。
周りも少々騒がしく、先生もまだいない。
雑談をして、親交を深めているクラスメイトが、教室中に見受けられる。
そして、ヒューイに声をかけてきた人物は。
彼の名は、アンディ・スチュアート。
ヒューイが、今日から、一緒に授業を受けるクラスメイトの一人だ。
少々、お調子者な面があるようで、ムードメイカー的存在のようだ。
容姿はといえば、至って平凡。
茶色の短髪に、少し鋭い水色の瞳。
ヒューイと同じ、高等部の制服を着ている。
体格だけは、普通よりも少しガッチリしている。
しかしそれも、少しである。
しかも、着痩せするタイプなので、至って平凡に見えてしまう。
悪くもなければ、際立って良いわけではない。
最悪、“平凡”の権化とまで、言われる始末である。
強いて、非凡な所をあげるならば、耳の形だろうか。
この世界の住人で、魔導の才能がある者は、大抵の場合、少し尖った耳をしている。
耳の尖り具合が鋭いほど、より攻撃的な魔導を扱えるため、世間一般的には、優秀な魔導士の象徴と言われている。
(もちろん、普通の耳でありながら、魔導を扱える者もいるにはいる。
しかし、そういう者は、少数派である。)
アンディもそうなのだが、スチュアート家は、何かの分野に特化した魔導士を、数多く輩出していることで有名なのだ。
特化型の魔導士は、対外、耳の形が左右で異なっている。
アンディは、どちらかと言えば、スチュアート家にしては珍しく、オールラウンドな魔導術を扱えるため、そこまで、目立って耳が非対称と言う訳でも、ない。
故に、どちらかと言えば、平平凡凡な彼は、“平凡”の権化と言われてしまうのである。
そんな彼は、とにかく、ヒューイのことが気に入ったようで、
「なぁ、今日の帰り、どこか寄っていこーぜっ!」
などと、もう放課後のことを誘ってきている。
しかし、まだ、授業はひとつも受けていない。
1時限目と2時限目は、高等部の進級式で潰れたのだ。
次の3・4時限目は、ホームルーム(以後、HRと略します)であり、今日は授業らしい授業もない。
実質、明日から始まるのだ。
全て。
なので、ヒューイは、あまりにのんきなクラスメイトに向かって、
「まだ、高等部の授業、何も受けていないんだが・・・。
まだ、放課後について考えるのは、早すぎるだろう?」
と、言ってみる。
アンディはそれに、顔をしかめて、
「おいおい・・・
お前、マジメすぎ・・・・
確かにそうかもしんねぇけどよ・・・」
と、力なく、反論しようとしてくる。
しかし途中で、早くも、ヒューイには、そういう類の反論は無意味だ、と悟ったのか、口を閉ざしてしまう。
そんな彼の様子を見たヒューイは、さらに、
「それに、さっそく明日から、エキドナ様担当の、授業がある。
つまり、少しでも内容を理解できるよう、予習するのに、放課後は使うべきだ」
などと、追い打ちとして、(正論中の正論すぎて)反論のしようがないことを言う。
それにアンディは、
「つれないな~・・・
まぁ、無理にとは言わねぇけどよ」
と、つまらなさそうに呟く。
そんな2人の会話を何気なく、聞いているエレン。
その時、エレンは、何かを思いついたようで。
その会話に横入りする。
「ねぇ、そこの2人!
今日、私と寄り道しない?」
と、アンディに向かってウインクする。
すると、その合図に、ピンときたアンディは、
「いいね!!
どこに行くんだ?」
と、エレンの提案に乗る。
それに対し、エレンは、
「・・・・ちょっと
・・・・魔導具を買い換えに・・・ね」
と、意味ありげな答えを返す。
それにアンディは、
「マジでっ?!
魔導具って、資格もってねぇと持てないアレだよな!?」
と興奮を隠しきれない様子で。
一方、ヒューイは、珍しく驚いた顔で、
「・・・・まさか・・・・・・・・。
エレン・・・お前は・・・・魔導具を・・・」
と、問い質そうする。
何故、ヒューイはこんなに驚き、焦ったのか。
魔導具とは、その名の通り、魔導を扱う際、術への、より効率的な魔力反映を手助けする道具のこと。
魔導具の有無の差は、戦況を逆転してしまうほどのもので。
その強力さは、巨匠と呼ばれるくらい、熟達した職人が造ったモノならば、初心者でさえも、魔導士歴十数年くらいの中堅レベルまで押し上げてしまうほど。
そんな危険な代物に成りかねない魔導具は普通、国家魔導士の資格が無ければ、所持を許されていない。
それは、国際的に見ても、同じ傾向が見られる。
しかし、戦争ならば、話は別だ。
少しでも戦力を上げたい国は、国家魔導士の資格がなくても、所持・使用を許可する。
もちろん、魔導学校の学生が出陣する時も、大概の場合、使用の許可を下ろすだろう。
しかし、普段は、許されていない。
それなのに、エレンの口から飛び出したのは、学生の見習い魔導士の口からは出てこないはずのその言葉だった。
それは、間接的に魔導具を持っているとほのめかしているのだ。
それは、国家魔導士であるということを認めているのだ。
しかし、ヒューイは、自分以外で、学生であり、国家魔導士の資格を持つ者を知らなかった。
いや、いるはずがない・・・・。
何か、裏がありそうなエレンの事が気になったヒューイは、
「・・・わかったよ。
行けばいいんだろう?
行けば・・・」
と、仕方なく、同行する事にする。
それを聞いたエレンは、満足げに頷く。
頷いてるエレンを見たヒューイは、内心、してやられたと思った。
そう、エレンは、ヒューイが食いついて来るであろう単語を、ワザと言ったのだ。
アンディはというと、ガッツポーズをして、喜んでいる。
余程、ヒューイと一緒なのが嬉しかった(?)ようだ。
そんな3人の会話を、近くで、何気なく、聞いている者がいた。
その女生徒の名は、アリス・マクファーソン。
ここら辺では有力な、ブライアン・マクファーソン公爵の一人娘だった。
最近は、マクファーソン家に養子が入ったようで。
つまり、アリスには義理の姉妹ができたのだ。
その義理の妹は、すぐに父の寵愛を受けるようになった。
そのため、今までの居場所を失いつつあった。
つい先日、父からは、
「居場所を失いたくなければ、私の言うことを、言われた通りにしなさい。
私の役に立てば、お前の居場所は保障される。
今は、この新しい妹を可愛がりなさい」
と言われた。
そうした、人知れず、辛い現状に置かれているアリスは、3人がどこへ行くのかを、こっそりとメモに取り、スカートのポケットにしまう。
そのアリスの瞳はどこか焦点が合っていない。
まるで、何かの暗示をかけられているようだった。
その彼女の苦しみを察知できる者は、この場にはいなかった。
アリスは、静かに席を立ち、教室を出る。
まだ、HRは始まっていない。
しかし、誰も、追いかけては来ない。
当たり前だろう。
今の時代、ほとんどの学校で、入学式(この学校では進級式)の日に行われるHRに、必ず出なければならないという決まりなど無いに等しい。
全部の授業のうち、半分程は自分で、受講する科目を決めるのだ。
そもそも、アリスは公爵令嬢だ。
口出しする者など、いるはずがない。
大体の公爵令嬢は、家の用事で授業を抜けることも、しばしばある。
アリスが教室を出て行ったのも、何か用事ができたのだろう、としか思わないのも、致し方ないのであった。
しかし、今、アリスが出て行ったのはもちろん、家の用事などではない。
義理の妹に会いに行くためだ。
――――――義理の妹の言うとおりにさえしていれば、居場所を失うはずはない――――――。
そのときまで、アリスは、そう信じていた。
感想などがありましたら、書いていただけると嬉しいです。
これからも、どうかお付き合いください。