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偏差値6...歪照(ワイデレ)

わいでれは造語です。私が勝手に作ってしまったんですが、歪んだ照れ方と言うことでしょうか。((聞くな

汐音は病んでいて、鶴伎は歪んでいると言うイメージで書いているのでこんなことに。

どちらにせよ二人とも異常者です。異常者の学園へ、どうぞ行ってらっしゃいませ。

 汐音の小さな手に携えられたカッター、それは美術で鉛筆を削る為に使っていた刃物であった。それがどういうことだろうか、鉛筆どころか完全に…人間に向けられている。

 目の前に居る鶴伎の頬や肩、胸を触っている少々(?)遊びの過ぎる保険医―桐谷 早妃(きりや さき)に。


「触んなよ…っ汚い手で、先輩に触るな!」


 嫉妬と言う醜い感情が抑え切れなくなってしまった汐音は、正に我を忘れてと言った形でその桐谷にカッターを振り上げた。もちろん、手加減はなしである。

 桐谷は訳も分からず悲鳴を上げて逃げ惑ったが、このままではいけないと感じた鶴伎は汐音を止めに入った。カッターを持つ腕が振り下ろされる前にその手首を掴み、汐音の動きを止める。

 正直鶴伎も、この汐音は怖いと思った。何考えてるんだこの子は、と苦虫を噛み潰したような顔をした。


「何よ…っ何なの!?校長に言いつけるわよ!?」

「そんなことしたら校長にアンタが長谷寺先輩に言い寄って誘惑したことを告発してやる!!」

「ちょっと待って、藍沢さん落ち着いてよ。いきなり割って入ってきてそれはないでしょ、それと刃物危ないから下ろして」


 鶴伎にそう言われてやっと落ち着きを取り戻した汐音はゆっくりとカッターの刃を引っ込め、手から落とした。カシャンと言う金属とプラスチックの混ざった音がして、その音を境にしばらく無音が続いた。

 荒い息遣いと自身の心臓の音、それと耳鳴りしか汐音の耳には届かなかった―桐谷が沈黙を破るまでは。掴まれた両手首が痛み始めると、やっと桐谷が口を開くのであった。


「…フンっ、何よ…フリーじゃないならそう言ってくれて構わなかったのに」

「いや、別に…」

「何?じゃあその子が貴方に惚れてるだけ?…そう、」


 桐谷は汐音の顔をちらりと見遣り、格付けをするように舐めまわす様な視線を汐音に送った。汐音は気分を害されたので、桐谷の眼を思い切り睨みつけてやった。狂気混じりの赤茶色の瞳を見ると、桐谷と鶴伎は背筋に寒気を覚えた。

 けれど決して悪くない寒気だと、鶴伎だけは思った。鶴伎も少し、変な感性を持っているのかもしれない。


「とんだ女の子に好かれたものね…貴方みたいに目立つ人には丁度良さそうだけれど…なんて。」

「っ…!貴女みたいな人に言われても、私全然嬉しくないです!」

「何よそれ?男女差別?それともあたしが軽いからってこと?」


 汐音はあえて質問に答えなかった。言わなくても分かるだろうと。

 何か言いたげな赤茶の瞳で、言いたかったことを訴える。きっとこの先生は人より倍聡いだろうから、言わなくったって分かるはずだ。

 何人もの男の相手をしているその汚い手で綺麗な鶴伎の顔を汚すなと、その汚らわしい声で鶴伎の耳を汚すな、と。


「…んもう、その怖い目止めなさいよ!呪い殺されそうで怖いわ!悪かったわね、何股もかけてて!本当、純粋な女の子って面倒だわ~」

「純粋なんかじゃ…」


 純粋、と言う単語を聞いた途端、汐音の表情が暗くなった。桐谷は気にも留めずにスタスタと足音を立てて職員室へと戻って行ったのだが、鶴伎は不思議そうに汐音の顔を覗きこんだ。

 私は純情何かじゃない。私は純情などではない。と汐音の胸中に罪悪感と自己嫌悪の念が渦巻き始めた。カッターナイフで先生を切ろうとしてしまったことや、課題を途中で投げ出して来てしまったこと、そして愚かな姿を鶴伎に見られてしまったこと…。

 冷静になって考えてみれば、自分は今とてもやばい状況に立っているのだろうと思う。最悪の場合刑務所行きかもしれない…だって、人に刃物を向けてしまったのだから。


「汐音ちゃん、大丈夫?」


 鶴伎のその場凌ぎな取りあえずの一言に、汐音は顔を上げて鶴伎の綺麗な顔を見た。今にも泣きそうな顔だったろうと思う。だからか、鶴伎が頭を撫でてきた。

 嗚呼そんな風に優しくされたら、ほら、涙が溢れて止まらなくなってしまう。自分が悪いとは分かっているのだが情けなくも、汐音は鶴伎の胸で泣きじゃくってはブレザーに涙の染みを作った。

 愛しい。この人が堪らなく愛しい。この愛しさのせいで、自分が自分ではなくなってしまう。愛しさが溢れて度を越すと、今みたいに人を傷つけてしまうような気がしてならない。堪らなく怖い…自分が、怖い。


「…ねぇ、もう今日みたいなことは絶対しないで。約束できる?」

「っ…分かんな‥ひくっ、私、わたし…!」

「今回はあの先生だったから分かってくれると思うけど、普通の一般生徒とかにこんなことしたら危ないからね。汐音ちゃんあとちょっとで退学スレスレだったよ」


 頭では理解できているのに心が追い付かなくて、いや心が先走ってしまって、汐音は自分を制御できなくなってしまう。そう言えば幼児だったころもそうだったかも知れない、大切なお気に入りの玩具を奪われた時、言葉よりも先に手が出ていた気がする。

 嫌だと思った瞬間私の体は無意識に動いてしまっているのだ、何と困った性質だろう。だが、自覚したのは今が初めてだ。

 今後こんなことが起きたら…鶴伎と一緒に居られなくなってしまう、葩ともお別れになってしまう。両親に叱られて、叔母に幻滅される。高校中退の女の子なんか、誰も雇ってくれはしないだろう。駄目だ、そんなことは。


「…約束して、もう2度とこんなことはしませんって」

「もう…2度とこんな真似しません…ひっく、」

「うん、いい子だね」


 先輩、好き。この気持ちが抑えられなくなったときは、この言葉を叫んでもいいですか。

 汐音は涙を袖で拭うと、赤く充血した目で鶴伎を見つめた。鶴伎は満足そうににっこりと微笑を浮かべると、耳元に薄い唇を持って行った。


「答えはお預け。いい子にしてたら、いつか出してあげる」


 柔らかそうな唇が耳たぶに触れるか触れないか位のところで囁かれ、汐音の頬は赤く高潮し始めた。意地悪なご主人様に買われた従順な犬がご褒美をお預けにされて、よだれを垂らして待っている姿が想像でき、自分はまさにこの様な状況に立っているのだろうかなどと自分と鶴伎に置き換えて想像してしまう。

 自分にはそっち系の趣味はないと思っていたが、案外あるのかもしれないと今思った。だって、こんなにも胸が熱い。きっと相手が鶴伎だからかもしれないが。


「さて、ご飯食べに行こうか。汐音ちゃんもお弁当持って来れば、一緒に食べてあげる。」


 食べてあげるって何ですか。食べてあげるって、何ですか!

 汐音は今ものすごくそう思ったが、正直一緒に食べてもらえるのは凄く嬉しい。ここだろうか、自分の駄目なところは。取りあえず弁当取りに教室に行こう、そう思ったのは確かである。



 昼休み終了20分前、ギリギリの時間帯だが、鶴伎と食べれるならそれでもいいかと思って裏庭にやってきた。そこには初対面の男子生徒(恐らく先輩)が一人ベンチに座っていた。

 背後に立っていた鶴伎が座るよう促し、汐音はその男子生徒の隣に緊張しながらも座る。男子生徒は興味深そうに汐音をまじまじと見つめた。


「え…何?鶴の新しい彼女?」

「ち、違…ええと、生徒会執行部に入部させていただきました。藍沢って言います。」


 自分で否定するのは少し泣きそうになったが、多分鶴伎に否定されるよりはましだろうと自分を諭す。だけれど、目の前に居る鶴伎はきっとこの状況を(確実に)楽しんでいる。鶴伎が汐音の隣に座れば、朝母に作ってもらった弁当を広げた。


「ああ!朝言ってた子か!初めまして~オレ、一之瀬 久遠って言います!宜しくね~汐音ちゃん」


 久遠の第一印象は“人懐っこい人”と言う印象が付いた。可愛い笑顔でこんな元気よく手を握られたら、誰でもそう感じるだろうなと思う。鶴伎とは少し違う“イケメン”と言ったような感じがした。

 こんな地味な女にイケメンと言われても嬉しくもなんともないと思うが、まぁ汐音個人の見解に拠り久遠はイケメンの類に入ると思う。

 人見知りな汐音はどう対応していいか困り、頭の中で解決しようとし始めた。それ故に、リアルでは無表情である。久遠は逆にそれにどう対応していいか分からなくなってしまった。


「ええっと~…オレなんか変なこと言った?」

「ん?久遠がヘンタイだからじゃない?」

「え!?そ、そんなことはただ私人見知りで…!」


 この時鶴伎が目を丸くして汐音を見たことに、汐音は一番驚いた。どの口がそれを言うと問うような目で見られると、汐音は鶴伎と初対面の時のことを思い出した。あの時何故か汐音は普通に喋れていたのである。まことに不思議な事に。

 だが普段、汐音は人見知りで自分からは中々話しかけられない。話題を振られてもギクシャクしてしまい、うまく返事ができないのだ。


「長谷寺先輩の時は特別で、私基本人見知りなんです!ごめんなさい!」

「特別って…まさか汐音ちゃん、脈アリ?」


 まさかも何もありませんが何か?とは、初対面のしかも先輩には言えなかった。が、普通に考えて分かるように脈ありである。


「ウッソ…何て罪作りなんだよハッセー…ありえねぇ…。付き合ってから連れてこいよ気まじーよ」


 最後の方で久遠の本音を垣間見た気がしたが気のせいだろうか、気のせいであってほしいものである。


「付き合うかどうかはまだ決めてないんだよね~。お預け?」

「はッ!?ちょっとナニソレ意味深なんだけど」

「あははっ、このあとで教えてあげるよ」

「オマエってマジドドドSだよなー…」


 それは同感ですと、汐音は心の中で同意した。汐音は今までにこの人以上に意地悪な人を見たことがない…貴方は漫画か本か何かから出てきましたか?と問いたくなるほど鶴伎は生粋のサディストであると思う。

 お預けの意味をこの後、久遠は聞かせてもらえるらしい。何故関係のない久遠に話すのか、親友なのだろうか。親友にだけ話すなんて、少し女々しいがそんなところも好きだと思ってしまう汐音は長谷寺鶴伎廃人である。


 そんな他愛もない話をし続けていると、5分前行動を促す予鈴が鳴った。半分しか食べ終えることのできなかった弁当を早急にしまって急いで教室に戻ろうとしたら、鶴伎が後ろから声をかけてきた。


「じゃあね、また放課後。」

「え?先輩たちは急がなくていいんですか?」

「うん、今日担当の先生休みだから自習なんだよね。汐音ちゃんは現国頑張って、今度はよそ見しちゃダメだよ。」


 何で次の授業が現国だということを知っているのだろう、本当にこの人は良く読めない人である。真に危ない人はこの人ではないのか、と汐音は小さく悪態を吐いた。

 悪態の理由は、何で汐音に理由を聞かせてくれないのだろうという不満からであるが、今はそんなことどうでも良い事である。国語の担当教諭は、いつも予鈴が鳴った時点で教室に居るのだ。今はそれに間に合うことだけを考えておかねばなるまい。



 汐音が去って間もなく、久遠ががっつくように問いかけてきた。


「なぁ!いつもなら誰だってOKしてたじゃん、何で今回はあんな意地悪すんだよ?」

「ねぇ、汐音ちゃんってさ、とっても個性的だと思わない?」

「は?…言っちゃあ悪いけど、周りの子に比べたら結構地味だと思うけど」


 鶴伎はくすっと愉快そうに、けれども上品な雰囲気の笑顔を見せた。とても優美な笑顔で、久遠も男であるとは言えどその雅さに心奪われそうになった。

 けれど鶴伎がこんな笑顔を見せる時は、決まって何か彼にとって楽しいことが起きる前兆なのである…よく言えば、であるが。

 悪く言うと、鶴伎が何かを企んでいる時に見せる笑みだ。本当にムカつくほど妖艶で、こんな笑みで女の子を落としているのかと思うと、久遠は心底男でよかったと思った。


「それがね、あの子俺のことが好きで好きでしょうがないんだって。笑っちゃうよね…まだ四月だっていうのに」

「は?…つまり、どういう意味?」

「その好きって気持ちが何処まで続くのか見て見たくなったんだ、面白そうじゃない?ただひたすらに純粋で一途な感情が、どこまで続くのかって言う観察。それにあの子はちょっと異常だしね…ヘタしたら死人出しそうな気もしなくもないけど」

「訳わっかんねぇ!オマエが異常だよー。もう、女の子の心を弄ぶなんてサイテー!」

「そうだね、でも勝手に好きになってきたのは向こうだから…」


 久遠は教室へ戻るまでの終始一貫して「訳分かんねえ」を繰り返していた。確かにお人好しの久遠にとって、この鶴伎の女遊びは訳が分からないだろう。こんな事をして何が楽しいのか、と。


(もし、俺の気の済むまで君の想いをくれたら…付き合ってあげるよ、汐音ちゃん。)


 何処までも上から目線な鶴伎の歪んだ遊びに、汐音は最後まで付き合えるのか否か。それは汐音しか分からないことである。

 しかし現国の時間、汐音が大きなくしゃみをしてクラスメイトから笑われてしまったことを鶴伎は知らない。

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