偏差値16.5...昔話
思えばあれは、この私立学校中等部に入ってしばらくたったあとだった頃だったろうか。オレがある嫌~な奴との初めの対話は。
あいつとオレは同じクラスで、でも出席番号が遠かったせいか全く話さなかった。向こうもオレと関わろうとしなかったし、何より周りに女子ばっかりくっつけて近寄りがたい雰囲気だった。
それなのに今ではあいつと親友同士だなんて、笑えるよな。あれは多分…初めての校外学習だったかな。
たまたまあいつと班が一緒になったんだ。くじ引きで。…初めは最悪だなって思ったかな、だって学校一悪名高い女たらしと同じ班になってしまったのだから。
「長谷寺、おまえ行きたいとこあんの?」
「…特にないけど」
「何かやりたい係とかある?」
「余ったのでいいよ」
中一のくせに嫌に冷めた性格の長谷寺 鶴伎は、本当にオレにとって苦手なタイプだった。
オレだって校外学習何て面倒くさい事は嫌だけど、それでも楽しめるようにって頑張って案を出しているのに、何て空気の読めねえ奴なんだ!って。
だけどまあ、あいつの場合は少し態度が違ったかな。任せた仕事には誠実だったし、地理とか強かったし、それに、付き合いが悪いわけじゃない。
ただの女たらしかと思ったら意外といいやつじゃん。ちょっと見直した。
「なあ!長谷寺って下の名前なんだっけ?」
「…鶴伎だけど」
「剣?!いかつい名前だなー!オレ久遠!」
「へえ、意外。」
「意外ってなんだよ…。まあこれから宜しくな!」
「うん」
これがオレと鶴が、最初に心をカヨワセタ(?)日だな。いやあ、我ながらどーでもいい話してるなあ。でもま、仲よくなれたんだからそれはそれでいいや。
それでもやっぱり性格真反対だし、あいつは他人に至極無関心だしで喧嘩したことも多々あった。オレが一方的に怒るだけだったりしたけれど…。
本当に絶交してしまうんじゃないかって、思うほど鶴と喧嘩したのは…やっぱり、恋がらみの時だったかな。この時も鶴はオレの文句を聞くだけで何も言わなかったけれど。
三年の時に一緒のクラスになった女の子に、オレは恋をした。雰囲気が柔らかくて笑顔がかわいくて、でもしっかり者な典型的な可愛い女の子。
名前は羽鳥 結。HR委員会委員長を務め、剣道部に入る文武両道少女だった。オレの初恋だった…。
この私立学校は中高一貫で高校受験する必要のない学校だったにも関わらず、高みを目指して何処か頭のいい高校へ行ってしまうことになるのだけれど、それでも好きな気持ちは止まらなくて、オレは遂に告白を決めた。
「オレさ、結のこと…好きだ。高校で離れ離れになっちゃうかもしれないけど、オレと付き合って下さい!」
初めての告白で変なトコ敬語になっちゃったし、我ながらサムイ台詞だったりしたけれど、結はオレを笑ったりしなかった。
寧ろ礼さえ言われた。しかし、その後の一言でオレの心は粉々にぶろーくんした。
「…一之瀬くん、ありがとう。嬉しいよ。…でもごめんね、私君とは付き合えないや…。
けど、自信をくれてありがとう!私、今なら告白できる気がするよ!」
…え?
「……え…誰に」
「一之瀬くんだから言うね。私、3組の長谷寺君が好きなの」
……はい?
そう、オレの初恋はあの無駄に色気たっぷりの極彩男(笑)に食われたのだ。それにあいつは結のこと何にも知らない癖にOKしやがったんだからムカつく。
やっぱりただの女たらしなんじゃねえのかと疑い始めたくらいだ。でも、結がとても幸せそうな顔をしていたから、それはそれでいいかと思ったのだった。
しかし、そう思っていたのもつかの間。
~♪~♫~ピッ
「…もしもし?」『ぐすっ…ひっく…一之瀬くん…』
「結?!どうしたの?」『わたし…鶴伎くんにフラれちゃった…。』
「はっ!?一体、何でまた」『分かんない…わたし、何か変なことしたかなぁ…一之瀬くんなら鶴伎くんの親友だし、何か知ってるかと思ったんだけど…』
結と鶴伎が付き合い始めて1ヶ月、鶴は何の前触れもなく結を振った。しかし聞くところによると、1ヶ月で破局何ていうのは鶴伎にはザラにあるみたいだった。
何故そんな人の気持ちも顧みないような振り方をするのかは誰にも分からないみたいだったが、オレは我慢できなくて鶴に問いただした。
何故こんなことをする、と。
帰ってきた答えは、シンプル且つ分かりやすい答えだった。
「好き同士にはどうしてもなれなかったから」
「…はぁ?」
「結ちゃんも俺も、お互いにね」
「嘘つくなよ…結はお前を好きだったはずだ」
「そう錯覚していただけでしょう…?俺に言い寄ってくる女はみんな同じように愚かだね、みんな俺を好きだと信じて疑わない。そんなこと、あるはずがないのにさ」
「何言ってんだよ…結は確かにお前を好きだったろ?!お前の顔見るたびに頬染めて、幸せそうにして……、!」
オレは鶴伎の言っていることを、何度か怒鳴り散らしながら少しずつ理解していった。鶴伎の綺麗な顔は女の子たちを狂わせ、恋に落ちた錯覚を起こさせる。
媚薬みたいなものだ、その顔を見たものは淫魔に誘われるように鶴伎に惚れて行く。どんなにその人が嫌なやつだったとしても、顔を見てしまえば忘れてしまう。
それに鶴伎は気づいていて、それで1ヶ月という短い期間で決着をつける。その間浮気もしないし女の子を寄せ付けないし、相手に誠実に接する。
しかし女の子がいつまでも鶴伎の本質を見抜かずに顔にばかり惚れていると、きっかり1ヶ月間でフラれてしまうのだ。
「ふざけんな…!」
「…久遠、結ちゃんのこと好きだったんでしょ?今なら告白すればきっと、OKしてもらえるよ。あの子はそういう子だから」
「黙れよ!お前に結のことをとやかく言う資格はない!!」
「……どうして、俺が怒られなくちゃいけないのか分からないけれど、本当にあの子のことが好きなら俺のとこ何て来させるなよ。分かってるはずでしょ」
「黙れって…!鶴とはもう、口利きたくない…!」
オレは情けなくも涙を流した。男泣きなんて見苦しい、しかも、一番泣いているところを見られたくない奴の前で泣いてしまった。
すると鶴は信じられないことに、微笑んでこう言ったのだった。
「ごめんね、言いすぎた。…機嫌直しなよ?」
そっからオレは恋をしなくなった。かわいいと思う子はいたけれど、付き合ったりもしたけれど、でもやっぱり恋にまで踏み込めなかった。
その子がもし鶴のことを好いてしまったら…そう思ったらまたあのような嫌な経験をしそうで、怖くて恋なんてできなかった。
でも、この間の遊園地での出来事…何故か急に、胸にきゅんと来た。ああ、恋している女の子って、とってもかわいいんだと思った。
第一印象は地味な女の子って感じだった。黒縁眼鏡で髪が白くて、目が茶色い。目立つ要素は十分にあるのに、雰囲気が頗る地味だった。
でも鶴と話している汐音ちゃんは真っ直ぐで、純粋で、いい子だ。特に秀でたところはないけれど、ちょっと周りに居ないくらいにいい子。
それなのに鶴伎は「実験」とか言って汐音ちゃんをもてあそんでいる。また一人の女の子を泣かそうとしている。
「お前、汐音ちゃんのこと本当はどう思ってるんだよ?」
オレは何度も鶴に問いただした。でも…鶴は答えをくれない。
「面白い子だよね。…好きだ好きだって、一回言われれば分かるって言うのにさ…しつこくて。今までにない感じかな」
面白いってなんだよ!人の気持ちを馬鹿にしやがって!!本当に性格の歪んだ奴だな!!
「いつまでもそんな風にはぐらかすんなら、オレ汐音ちゃん取っちゃうよ?」
「…へえ?また面白い提案だね」
「面白いとか言うな。オレ、本気だからな」
「できるものならやってみたらどう?もし汐音ちゃんが久遠に落ちたとしても、俺は何にも損しないしね。お前も初めての両想いを経験出来て万々歳なんじゃないの」
「…分かったよ、お前がそのつもりなら、オレも本気でいくから」
鶴は余裕綽々な表情でオレからの挑戦状を受け取った。何だよムカつく奴だな、汐音ちゃんが鶴にぞっこん(死語)なのは分かってるさ。
でも鶴と付き合えたとしても、汐音ちゃんは決して幸せなんかになれやしない。きっと酷い破局を迎えるに決まってる。
そんなこと、オレが許さない。汐音ちゃんがどんなに鶴のことを好いていようが、絶対オレに惚れさせてやる。
…それがどんなに、汐音ちゃんにとって辛い事でも。
「汐音ちゃーん☆」
「久遠先輩。どうしたんですか?」
「んーん特に用はないんだけどね~…汐音ちゃんが見えたからさ」
「…長谷寺先輩は一緒じゃないんですね」
強気に言ったはいいけど…果たして…。本当に惚れさせられる…かな?
駄目だ!弱気になっちゃ!オレの取り柄はポジティブなところだけなんだから!!待ってろよ鶴!絶対にお前に汐音ちゃんは渡さないからな!




