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魔王便シリーズ

魔王便の社員旅行

作者: しゅうらい
掲載日:2026/11/03

 残暑も終わり、街の木々は秋らしく色づいていた。

 しかし、路地裏にある『魔王便』の前は、静かなものだった。


「はぁ……今日は暇ですね」

「今日『も』の間違いじゃろ」

「ローズ様、一言多いですよ」

「なんだ、本当のことじゃろ」


 従業員のセバスとローズは、強く睨み合う。

 バイトのつぐみと人形のリリーは、離れた所にいた。

 だが、どうしていいかわからず、おろおろしている。

 すると、店長で魔王のマオが、店内に響く声で言った。


「よし、これから温泉街に行くぞ!」

「えっ、お仕事入ってたんですか?」

「あぁ。だが、行くのは、わし一人ではない」

「どういうこと?」


 つぐみとリリーは、顔を見合わせていた。

 わけがわからない、といった表情である。

 だから、マオはひとつ咳払いをする。


「温泉街には、従業員全員で行く」

「マオ様、それは『社員旅行』というものですか!」

「うむ。お主らは、いつも頑張っているから、たまにはな」

「やったーーっ、温泉、温泉!」

「いいですよね、温泉!」


 マオの提案に、つぐみとリリーは大喜びだった。

 しかし、ローズだけは首を傾げていた。


「なんだ、そんなにいいものなのか?」

「あぁ、ローズ様は知らないのですね」

「むっ……」


 セバスから言われ、ローズはカチンときて睨みつける。


「……そなたは、知っているのか?」

「えぇ、もちろん」


 すると、セバスは得意気に話しだす。


「今回行く所は、いくつもの温泉があり、おいしい食べ物や、可愛い雑貨もあるんですよ」

「ほぉ?」

「あら?」


 その時、リリーがセバスの背後に近づく。

 そして、持っていた物を見上げた。


「セバスちゃん、その持っている物はなに?」

「えっ!」


 珍しく、セバスは動揺した。

 そして、ローズもセバスの後ろに行く。


「……なんじゃ、パンフレットを読んだだけではないか」

「いっ、いいでしょう。良い所なのは、本当なのですから!」

「おい、なにをしている」


 従業員たちが騒いでいると、出口にマオが立っていた。

 その目は、完全に呆れている。


「早く準備をして、出発するぞ。予約はもうしてある」


★★★


 マオご一行が着いたのは、温泉街にある旅館だった。


「各自荷物を置いたら、自由行動とする」

「じゃぁ、ローズさんとリリーちゃん、早く部屋に行こう!」

「リリー、どっちが早く着くか、競争じゃぞ」

「よし、負けないわよ!」


 そして、二人同時に走りだした。


「こら、廊下は走ったらダメですよ!」

「では、わしは女将に会ってくるから、あいつらの世話を頼むぞ、セバス」

「かしこまりました」


 セバスと別れたマオは、女将のよしえと会っていた。


「これが、頼まれていた物だ」

「まぁっ、わざわざありがとうございま……」

「いっただきーーっ!」


 よしえが、荷物を受け取ろうとした、その時である。

 五歳くらいの少年が、荷物を奪ったのだ。

 そして、一目散に逃げていく。


「まっ、待たんかーーっ!」


 それから、マオと少年の追いかけっこが始まったのである。

 少年はすばしっこく、あっちこっちを走り回っていた。

 だが、マオも負けておらず、追いかけていく。

 すると、買い物を楽しんでいた、つぐみたちとすれ違う。


「あれ、店長?」

「なんか、子ども追いかけてなかった?」

「マオは、なぜ飛ばんのだ。その方が速かろうに」

「飛ばないのではなく、飛べないのですよ」

「どうしてですか?」

「ここは、有名な温泉街で、人も多いです。飛べば、目立ってしまうでしょう?」

「あっ、そうか」

「それより、子どもの持っている物の方が、厄介ですね」


★★★


「もう、あの親父しつこいなぁ!」


 少年は、体力が限界まできていた。


「そういえば、この荷物の中身、なんだろう……」


 だんだん中が気になり、とうとう開けてしまう。

 しかし、中身はただの靴だった。


「ラッキー、これに履き替えて逃げちゃえ!」


 子どもは、隠れて靴を履き替えた。

 すると、靴は子どもの足にピッタリになる。


「やった、これであの親父をまける……」

「小僧、やっと見つけたぞ」

「げっ?!」


 マオは手を伸ばし、少年を捕まえようとした。

 だが、その瞬間靴が光り、目にもとまらぬ速さで駆けていく。


「うわぁーーっ、助けてーーっ!」

「ふんっ、人から盗んだりするからだ」

「マオ様ーーっ!」

「ん?」


 セバスの声が聞こえ、マオは振り向く。

 マオを追い越し、セバスたちが後を追いかけた。


「あとは、我々にお任せください!」

「小僧、逃げても無駄じゃぞ!」


 ローズが捕まえようとすると、ジャンプして子どもは逃走。


「つぐみちゃん、あたしを投げて!」

「うん、わかった。えーーい!」


 つぐみはリリーを、少年に向けて投げた。

 しかし、飛んでいったのは明後日の方向。


「……あれ?」

「どこ投げてんのよーーっ!」

「ごっ、ごめーーん!」

「しかたない……私が行きますか」


 ため息をつきながら、セバスは駆けていく。

 そして、少年の前に先回りした。


「そこまでですよ。観念しなさ……」


 そこまで言って、少年に頭を踏まれた。


「ごっ、ごめんなさーーい!」


 少年はそのまま、遠くへ行ってしまう。

 やがて、マオたちはセバスの元に駆けつける。


「セバス、大丈夫か?」

「うぅ……まさか、頭を踏んでいくとは……」

「あたしなんて、変な方に飛ばされたわよ」

「ごめんね、リリーちゃん」

「それにしても、あの子どもはどうするのじゃ?」

「安心せい。もう、効き目もきれるころだろうよ」

「えっ?」


★★★


 その頃、少年は橋の上を跳んでいた。


「おっ、俺、どうなっちゃうんだ……」


 すると、突然靴が光らなくなった。

 そのため、少年は真っ逆さまに落ちていく。


「うわぁーーっ!」


 しかし、地面に激突することはなかった。

 間一髪のところで、マオが受けとめたのだ。


「ふんっ、やっと捕まえたぞ」

「あっ、さっきのいかついおっさん!」

「やはり、このまま落とすか」

「わわっ、ごめんなさい!」


 それから、少年を交番に預け、マオたちは旅館に戻った。

 だが、旅館には警察が数人来ていた。


「これ、なんの騒ぎ?」

「実は、お客様の中に逃亡者がいて、今捕まったところなんです」

「えぇーーっ?!」

「なるほど……あの靴は、そのお客の物だったのですね」

「これを履いて、逃げるつもりだったのだろう」

「でも、効き目がきれたから、ただの靴なのじゃろ?」

「でしたら、私がもらってもいいですか?」


 すると、女将のよしえが近づいてくる。

 そして、靴を受け取ると、優しく微笑んだ。


「ちょうど、靴を買おうと思ってたので、よかったです」


★★★


「ふぅ……やっと落ち着けたのぉ」

「まぁ、あとはゆっくり休みましょう」

「あら、マオちゃんどうしたの?」

「いや、少し肩がこってな」


 マオが肩をさすっていると、つぐみが肩に手を置く。


「だったら、私が肩もみしますね」

「おっ、おぉ……」


 つぐみに肩もみされ、マオは少し照れてしまう。

 すると、セバスとローズが、すごい勢いで近づいてくる。


「つぐみさん、抜けがけはいけませんよ!」

「小娘、我のマオに色目を使うな!」

「なっ、なんのことですか?!」

「えぇい、暴れるな!」

「まったく、皆でなにしてるのかしら……」


 なんだかんだで、仲がいいマオ様ご一行なのでした。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました!

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― 新着の感想 ―
魔王だからマオなんですね♪ww ドタバタの社員旅行でしたね〜(*^^*)♪ なんかすっごく速くなる靴だったのかな? 元々ある作品の番外編みたいな感じですか〜?♪
わ!なんでしょう、この、かわいい社員旅行ʕ^ᴥ^ʔ:*+ 分かります 魔王様ってなんだか可愛いんですよね。 魔王様、もうユニークな存在です。 魔王様御一行がこんなふうに社員旅行しているなんて、なんだか…
おぉっ! マオちゃんご一行様お久しぶりです♪ ローズさんもちゃんと働いているのですね? みんな相変わらず楽しそうでよかったです で、今回も何打かんだで優しいマオちゃん♡ で、でも、従業員全員にモテモテ…
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