地球の勇者
これは、とある人から聞いた物語。
その語り部と内容に関する、記録の一篇。
あなたも共にこの場へ居合わせて、耳を傾けているかのように読んでくださったら、幸いである。
相手の都合を押し付けられること。
これほど嫌なことは、世の中そうそうないだろう。自分の思惑が相手と合致しているなら、とてつもない幸運。けれどもたいていは、自分のやりたいことと対立し、機嫌や体調を損ねるもととなる。
仕事であるなら引き受け、相手に合わせるのが当たり前であっても、ダメージは確実に蓄積されていく。ケアの仕方はいろいろあれども、与えられた休みだけで全回復できる人ばかりでないなあ。
続けていくうちに、じょじょにじょじょに傷みがたまっていき、どこかしらで爆発してしまう。タイミングによっては、取り返しのつかない惨事につながるかもしれないから、人生は恐ろしい面も多分に含んでいるといえよう。
お互いが相手に合わせられるといいんだが、あいにくそのレベルに至るには、まだまだ人間は成長、あるいは進化が必要だろうなあ。何世代もかけた末にたどり着くような、ゆったりと、でも確実な歩みによって。
そこに至るまでの失敗例とか被害者にはなりたくないけれど、そうもいっていられないこともしばしば……。
僕の話なのだけど、聞いてみないかい?
僕は地球の勇者だった。
こう聞くと「なんだあ? ゲームのやりすぎか?」と首をかしげたくなるだろう。
コントローラーを通し、機械を通し、画面を通し、ときにはゲームそのものに忖度されて、誰もが世界を救えてしまう時世だ。選ばれしものの特別感から、みんなが共有できる安心感へシフトし、自分にしかできないことから、自分でもできることを重視するようになっていく。
みんなとは違うことを求めながら、みんなと同じでいたい気持ちもある。複雑な人の心だけど、僕は先に話した地球の勇者である自負があったんだ。
きっかけは、友達とのかくれんぼの最中だ。
町内全体を対象とした大規模なもの。当時は空き地が多かったし、人様の家や企業の敷地に踏み入ることさえしなければ、どこに隠れてもオッケーという大ざっぱさ。
僕のお気に入りの隠れ場所は土管の中だった。見つかる、見つからない以前に、この中に不思議と安らぎを感じられたからだ。
寝不足気味な生活というのも手伝っていたかもしれない。土管に潜り込み、背中をあずけ、身体を気持ち丸め込む。内部の暗さも手伝って、そのままついウトウトとまどろんでしまうことがしょっちゅうだ。
見つかったなら、鬼の発声が目覚ましになってくれる。僕にとっては、昼寝にかっこうの口実ではあったものの、疲れやすい自分の身体がちょこっとうらめしかった。
――こう、僕も自分の思うがままに大暴れなり大活躍して、気持ちよくなりたいな。
漠然と考えながら、そのときもうっつらうっつらしていたのだけど……ふと、足の裏に針で突かれたような痛みを覚え、はっと目が覚めたんだ。
宇宙から地球を見る夢、というのを君は見たことがあるかい?
このとき、僕はまさにそれを見ていた。眼前にまあるく映る地球の姿は、理科の授業の映像で見たものとほぼ同じ。
雲と思しき白い部分は、海の絵などで見る高波のように、大きくうねりながら地球の大半を隠しているが、残りは明るい茶色と濃い目の緑に彩られた、アフリカとヨーロッパの大陸部分がのぞいていた。
地球のまわりに星らしき明かりはまたたいておらず、宇宙と思われる暗い空間にぽっかり浮かんでいる。けれども、じっとたたずんでいるばかりじゃない。
夢の中の僕の両腕が震え始める。無性に動きたくて、動きたくてたまらない、と待ちわびているかのようだ。
そうしている間に、暗い中から一筋、もう一筋と、緑色をした細い線がにわかに視界に入り込んでくる。その先端は、明らかに地球へぶつかる軌道。
察するや、これまた僕の両腕はおのずと動いていた。その緑の光を放つ先端へかぶさるように伸ばし、払いのける仕草をすると、緑の光線もまた軌道をずらして、払いのけたほうへ飛んでいく。
しかも、光線に触れた手の先から、腕を伝い肩へ届き、背中と胴をまたがって、駆け巡るのは心地よさだった。
心地よさそのものを取り入れている、というところだけど、あえてたとえるならコンソメスープかな。僕がスープの中でも最も好きなものなのだが、それを直接体中へ染み渡らせているかのようだった。
弾かれた光線たちは向きを変えられると、ほどなく粉々に砕け散り、黒地の宇宙に緑のきらめきをもたらしていく。
それだけで済むなら良かったけれど、ことは都合よくは運ばない。
先ほどの心地よさを感じられるのは、体感でせいぜい1分そこそこ。そこからはコンソメの心地よさが、無数の縫い針へ化けたかのような痛みに変わる。
一か所だけでも叫びたくなるのが、体中と来たらかえって押し黙るよりない。痛みそのものに耐えないと、どうにかしてしまいそうだった。夢の中のはずがはっきりと感じられてしまう。
「み~っけ」という声とともに、現実へ引き戻されたのを、この時ばかりは感謝した。
どうやら僕が最後だったらしく、土管の外はほとんど陽も落ちて、夜空に星の姿がちらちらとのぞき始めている。
星たちは夢で見たものと同じ、緑色のまたたきを放っていたよ。どの星も、どの星も。
それ以来、僕はこれまで不定期にあの夢へ呼ばれて、星を砕き散らしていた。わずかな気持ちよさと、それを悔いたくなる激痛にさいなまれながら。
もう、ここ6年あたりは音沙汰がないけれども、心に刻まれた警戒心はちっとも薄らがない。
でも、なんとなく思うんだ。あの緑の光線を通したら、ろくなことになりはしないって。
だから僕は地球を守る勇者なんだ。実際はどうあれ、そう思い込まなきゃあの夢に対する覚悟がなくなっちゃう気がしてならないのさ。




