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長らくお待たせしました。
ついに過去編完結です。
しかし、自分の中ではあんまり納得がいっていないので、今後も検討していくつもりです。
―――パリーン
運命のあの日、当時唯一の側室であったアメリアの部屋で、一つのものが壊れた。
華奢でかわいらしいガラスでできた白鳥の置物―――。
アメリアにとって愛する人……オルデロール・マクシオン=マクセスから生涯唯一、手ずから選び、渡された送り物であった――――。
***
オルは、パーティーの最中ずっと、本来の目的を忘れたかのように、熱心に雪那姫に視線を送り、視線に気づいてもらえると、今度は幾度もダンスに誘った。
その夜は、数回のダンスと少し長めの会話をし、姫が本来目的であった、穂澄国の皇女だと知ると、オルは笑みを深くし、そのまま雪那姫と別れた。
この時、オルの中では雪那姫を、王妃としてもらうことが決定していたのであろう。
セレナーデから帰ってきたオルは、ある意味常軌を逸していた。
それを、あの子は……アメリアは、本能で感じていたかもしれない。
アメリアの不安そうな顔が、これからのことを暗示しているようだった。
それから長いようで短い一月という月日が流れた―――。
ある日、アメリアは聞いてしまったのだ、オルが王妃を持とうとしていることを……。
オル自身から聞いていたら、事態は深刻にはならなかったかもしれない……。
きっとあの子も受け止めることができた。あの子は強い子だったから……。
しかし、あの子は聞いてしまったのだ、侍女たちの噂を、オルが熱心に求婚している姫がいるということを―――。
事実はあの子に『愛されていなかった』という絶望を運んだ。
両親のこと以来、あの子の心の支えは、ナーナ姫とオルからの愛だったのだから……。
その日を境に、少しづつ、少しづつ、アメリアはおかしくなっていったのだろう。
この時、オルが何かすればよかったと思う。
オルがしなくても、せめて私だけでも何かしてあげていたら……。
私達は目先のことにとらわれすぎていて、周りの……アメリアの変化になど気付きもしなかったのだ……。
私は、弟のような存在であるオルの希を叶えてあげたかった。
オルは、雪那姫を見てからというもの、雪那姫をなんとか自身に嫁がせようと四方八方に手を回していた。
或る時は、穂澄国へ書を送り続け、時に、圧力をかけることもいとわず。
また或る時は、大臣たちにも雪那姫との婚姻を認めさせるため、帝国に与える利益を説き、時には脅しともとれるような発言で、大臣たちに婚姻を認めさせたのである。
そして、時は瞬く間に過ぎていった。
オルの努力のたまものか、出会いからわずか3カ月で、半ば奪うような形をとりながらも、雪那姫との婚姻が、両国の間で決まったのである。
しかし、婚姻の決定は、オルの話を待ち続けたアメリアを、ますますおかしくさせた。
このころになって、ようやくアメリアの侍女があの子の変化に気がついた。
アメリアが、ナーナ姫を皇子扱いするというのだ。
オルと私は、急ぎアメリアのもとに行き、事態の重さに愕然とした。
オルに気付いたアメリアは、駆け寄り、ナーナ姫を見ながら美しい笑顔で言うのだ。
「陛下と私の皇子ですわ。これで、晴れて私も王妃という立場になれますわ。」
気付いた時にはどうにもならないほどに、アメリアは壊れてしまっていた―――。
王妃という、オルにもっとも愛されるであろう立場への執着は、恐ろしいほどであった。
今まで気付かれなかったのは、ひとえに、元公爵令嬢としてのアメリアの振る舞いと、プライド故だったのであろう。
王宮医師の判断のもと、アメリアを離宮に移し隔離しようという話がでた。
しかし、これに反対する者がいた。
皇帝陛下オルデロール・マクシオン=マクセスその人であった。
オルは、アメリアについて深い罪悪感と、責任を感じていた。
『自分さえ勝手なことをしなければ……。』という思いがあったのであろう。
それに、幼いナーナ姫には母が必要だとも感じていた。
『自身の行いのせいで、ナーナから母を奪うわけにはいかない。』そんな決意もあったのだろう。
アメリアの生活は、周りがサポートをし、ナーナ姫とは距離をおかせ、会わせる際は監視付き、という形をとり王宮内に残すこととなった。
しかし、壊れたアメリアには、周りのサポートも、気遣いも、無意味だったというしかない。
アメリアは、徐々に食事をとらなくなり、少しづつ衰弱していった。
オルの婚姻が決定してからわずか7カ月という月日でアメリアは、儚く逝った。
しかし、国民はこの悲劇を知ることはない。側室の死など、伝えられることではないから―――。
アメリアの死からわずか2カ月後、王宮内に大きな傷を残したまま、オルと雪那姫の結婚式典が開催されたのである―――。
ここまで読んでくださった方、お疲れ様でした。and ありがとうございました。
楽しんでいただけたら幸いです。
このお話は、過去編の終了を物語の折り返し地点として予定していますので、今後は、完結に向けて頑張っていきたいです。
次回は、雪那王妃視点(?)の予定です。