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セリフ一切なし、語りはオリビア。
過去編前篇です。
読みにくいとは思いますが、頑張ってください。
疲れちゃったら、回れ右、してくださいね。
逃げるように去って行った背中を見送りながら、考えるのは弟のように可愛がってきた皇帝陛下、オルデロール・マクシミリオン=マクセスのこと。
あの子は不器用なのだ、先の両陛下はオルのことを、息子としてよりも、跡継ぎとして厳しく育てた。そのため、愛情の伝え方を知らないのだ。
ッギィ―――
医務室の扉を薄く開ける。
ベットに優しく寝かされている王妃には、得も言われぬあの子の愛情を感じる。同時にあの子の不器用さにため息が出る。
あの子は気付いていないのだ。王妃に愛が伝わっていないことに、王妃が誤解していることに。
それもこれも同情なんかで側室を娶った結果なのだ、反省するといい。
***
7年と少し前、帝国マクセウスで一つの事件が起きた。
古株の貴族が不正を犯していることがわかった。先帝の時代から、国庫を横領されていたのだ。
その貴族、セナン・ハ―ネット公爵は、大臣として先帝の信頼が厚く、当時王位を継承してから3年、ひよっこのオルをよく助けていた。
とても、横領を働くような人には見えなかった。
公爵家には、重い病の妻、ご子息が2人、ご息女が1人いた。
そしてこのご息女、アメリア・ハ―ネットこそが今は亡きご側室であられる。
アメリアは幼きころから王妃候補最有力として、私とともに、王宮に部屋を与えられ生活していた。
私はその時王宮で、今の旦那を捕まえ、王妃候補も辞退した。
王妃として立つのは、アメリアであるとほぼ決まった時の、不正発覚であった。
公爵は、病の妻の薬のために横領をしていたことが分かった。公爵夫人の病のための薬は、遠く、東の国、穂澄国からの輸入品で、とても貴重なものであった。
昔なじみであるアメリアを、父親の横領、しかも、同情の余地の持てるもので、国外追放にするのはかわいそうだ。
当時、正室も、側室もいなかったオルはそう考え、側室に迎えたのだ。
これこそが、1番の同情であることに気づかずに……。
アメリアを側室に迎えたことで、公爵一家は国外追放は免れたが、爵位の剥奪、領地の没収、王都を永久に追放された。
アメリアの母の薬は、アメリアがオルに頼み込み、自身の宝石や、ドレスの代わりにもらっていた。
しかし、不正の発覚が、心労として身体に祟ったのであろう。発覚からわずか2カ月で儚くなった。
アメリアは他に妃がいなかったことが幸いしたのであろう、元公爵令嬢であるという立場ではあったが、やっかまれることなく、父親のスキャンダルと母の死の傷を、静かに癒していった。
アメリアは決していやな奴ではない。厳しくしつけられていたために、静かで、頭の回転が速く、分をわきまえていた。
不正発覚から1年が過ぎたころ、アメリアが懐妊したことが分かった。
その間アメリアは、『側室だから』といい、表舞台に立つことは一切せず、ひっそりと後宮で生きていた。その行為が、大臣たちから好感が持たれはじめていた。
オルとアメリアはひっそりと愛をはぐくんだのだろう。それが、恋でなく、家族愛でも、同情よりはマシだと私は思った。
それからまた1年近く経ち、王位継承権第1位の子が生まれた。皇女、ナーナ・トメイス=マクセウスである。
オルは相変わらず、アメリア以外の妃を持っていなかった。
皇女がもし、皇子であったならば、アメリアは空席の王妃の座に国母として、座ることも可能であったであろう。
それはかなわなかったが、大臣たちやアメリア本人であさえ、今後に期待というふうになっていた。
一生叶わぬ希とは知らずに―――。
ナーナ皇女が生まれ1年の月日がたった。
アマリアに懐妊の兆しはないが、夫婦仲は良好で、時間の問題とみられていた。
オルもこのころには、穏やかなで静かな幸せを愛だと感じていたのであろう。
実際、アメリアやナーナ皇女を慈しんでいる姿をよく見かけた。
そう、雪那姫に会い、真実の愛を知るまでは――――。
次はついに、陛下と雪那の出会い。
次で過去編終わるといいな。
ここまで読んでくださって、ありがとうございます。