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刹那  作者: するめ315
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4

矢じりに毒がつけられていたらしい。

毒のせいで熱に侵され、苦痛にゆがむ妻、雪那の顔を見ながら、あの時を後悔していた。


***


ナーナを抱き上げ、顔に笑顔を貼り付け、民に手を振りながらも、全神経は隣にたたずむ雪那に向いていた。

雪那が今日は何か真剣に考えていたことは知っている。悩みがあるなら打ち明けてくれたらいい。たちどころにその不安を、解決して見せる自信が俺にはある。

しかし、雪那は言わない。それは、結婚当初からかわらないことだ。

初めのうちは、夫婦としての信頼関係が、未熟だからだと考えていた。

だが、今は、何が原因なのか俺には、計り知れない。

無理に言わせても意味はないだろう。

子ができたら、解決すると思っていたが、雪那にはいまだ妊娠の兆しはない。


隣で急に動く気配がした。顔を向けようとした瞬間突き飛ばされた―――。


ドン―――

ドス―――

キャー―――


民たちの悲鳴が聞こえる。しばらく何が起こったのかわからなかった。

ただわかるのは、突き飛ばされた衝撃で、手を離してしまったナーナを、雪那がかばい抱いていることだけ……。


「……お……おかあさま……。」

「……なんですか、ナーナ姫……。」


『なんですか』ではないだろう。背中に矢が刺さっているんだぞ……。


「危ないですから…お父様や近衛兵といっしょに、王宮の中に入りましょう。近衛兵の方々、しっかりしてください。陛下と皇女を王宮内へ。」


な……何を雪那はいってるんだ。なぜ雪那自身の名が避難するほうに入っていない……。


「か……かしこまりました。陛下、皇女様こちらへ。」

「王妃様もお早く宮殿内へ。」

「い…いえ。すみませんが肩を……かしていただけますか。」


何をする気なのだ、危険なのに―――。


思っていても言葉など、一言も発することができなかった。

近衛兵に周りを固め護られ、バルコニーから扉までの短い距離を押されるように移動した。


バタン―――


扉の向こうで雪那の声が聞こえたような気がした。


***


バタン―――


扉の閉まる音で目が覚めた気がした。

いつの間にかオリビアが医務室に入ってきていたらしい。


―――あれから3日たった。


あの後雪那は、いきつく暇も無しに担架にのせられ、医師に連れられ医務室につれていかれた……。


雪那がどうあっても俺は王なのだ、呆けている場合ではない。


「少しお休みになられてはいかがですか、陛下。」

「余は大事ない。現状の把握はできているか。」

「そんなに次々聞かれても……。」

「それが宰相の仕事だろう。」

「ハイハイ。矢をいった犯人は失敗後自害した模様。報告では、広場に集まった国民に被害は出ていません。」

「そうか。ナーナは?」

「ナーナ皇女は、王妃様が倒れたとき泣き叫びましたが、そのまま泣きつかれるように気絶して、侍女と近衛に連れられ、部屋に戻りました。その後は部屋でおとなしく、放心しているとの報告です。」

「そうか。」

「やはり、今回民に被害が出なかったのは、王妃のおかげですね。」

「なに……?」

「覚えていらっしゃらないんですか。王妃様が体をおして、民に話しかけ混乱を未然に防いでくれたんです。」

「そう……だったのか……。」


雪那の手を握り祈る。早く目を覚ませ。言いたいことがたくさんあるんだ。

お前があの時何を考えていたか教えてくれ。


ピク―――


握っていた手が動いた気がした。


「雪……那……。」


雪那がゆっくりと目を開けた―――。

ここまで読んでくださった方ありがとうございます。

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