4
矢じりに毒がつけられていたらしい。
毒のせいで熱に侵され、苦痛にゆがむ妻、雪那の顔を見ながら、あの時を後悔していた。
***
ナーナを抱き上げ、顔に笑顔を貼り付け、民に手を振りながらも、全神経は隣にたたずむ雪那に向いていた。
雪那が今日は何か真剣に考えていたことは知っている。悩みがあるなら打ち明けてくれたらいい。たちどころにその不安を、解決して見せる自信が俺にはある。
しかし、雪那は言わない。それは、結婚当初からかわらないことだ。
初めのうちは、夫婦としての信頼関係が、未熟だからだと考えていた。
だが、今は、何が原因なのか俺には、計り知れない。
無理に言わせても意味はないだろう。
子ができたら、解決すると思っていたが、雪那にはいまだ妊娠の兆しはない。
隣で急に動く気配がした。顔を向けようとした瞬間突き飛ばされた―――。
ドン―――
ドス―――
キャー―――
民たちの悲鳴が聞こえる。しばらく何が起こったのかわからなかった。
ただわかるのは、突き飛ばされた衝撃で、手を離してしまったナーナを、雪那がかばい抱いていることだけ……。
「……お……おかあさま……。」
「……なんですか、ナーナ姫……。」
『なんですか』ではないだろう。背中に矢が刺さっているんだぞ……。
「危ないですから…お父様や近衛兵といっしょに、王宮の中に入りましょう。近衛兵の方々、しっかりしてください。陛下と皇女を王宮内へ。」
な……何を雪那はいってるんだ。なぜ雪那自身の名が避難するほうに入っていない……。
「か……かしこまりました。陛下、皇女様こちらへ。」
「王妃様もお早く宮殿内へ。」
「い…いえ。すみませんが肩を……かしていただけますか。」
何をする気なのだ、危険なのに―――。
思っていても言葉など、一言も発することができなかった。
近衛兵に周りを固め護られ、バルコニーから扉までの短い距離を押されるように移動した。
バタン―――
扉の向こうで雪那の声が聞こえたような気がした。
***
バタン―――
扉の閉まる音で目が覚めた気がした。
いつの間にかオリビアが医務室に入ってきていたらしい。
―――あれから3日たった。
あの後雪那は、いきつく暇も無しに担架にのせられ、医師に連れられ医務室につれていかれた……。
雪那がどうあっても俺は王なのだ、呆けている場合ではない。
「少しお休みになられてはいかがですか、陛下。」
「余は大事ない。現状の把握はできているか。」
「そんなに次々聞かれても……。」
「それが宰相の仕事だろう。」
「ハイハイ。矢をいった犯人は失敗後自害した模様。報告では、広場に集まった国民に被害は出ていません。」
「そうか。ナーナは?」
「ナーナ皇女は、王妃様が倒れたとき泣き叫びましたが、そのまま泣きつかれるように気絶して、侍女と近衛に連れられ、部屋に戻りました。その後は部屋でおとなしく、放心しているとの報告です。」
「そうか。」
「やはり、今回民に被害が出なかったのは、王妃のおかげですね。」
「なに……?」
「覚えていらっしゃらないんですか。王妃様が体をおして、民に話しかけ混乱を未然に防いでくれたんです。」
「そう……だったのか……。」
雪那の手を握り祈る。早く目を覚ませ。言いたいことがたくさんあるんだ。
お前があの時何を考えていたか教えてくれ。
ピク―――
握っていた手が動いた気がした。
「雪……那……。」
雪那がゆっくりと目を開けた―――。
ここまで読んでくださった方ありがとうございます。