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今日3度目のベールへ感謝を抱きながら、別のことを考えていた。
国民に手を振りながら考えているのは、ナーナ姫に王位継承をさせる方法だった。
陛下は今現在、妃も側室も持たれてはいらっしゃらない。
しかし、私が嫁いで今日で3年たつのだ。
そろそろ貴族や大臣、果ては他国から、妃を持つべきだという声があがってもおかしくはない。
陛下が決められたことに、否をとなえることは誰にもできない。
今までは私だけだった。
私が妊娠をしないように、細心の注意を払えばよかった。
しかし、他の妃を持ったらそうはいかない。
妃が産むのが皇女ならいい。皇女なら第一子のナーナ姫に王位継承権がある。
でも、皇子なら……王位継承権は皇子にいってしまう。
それでは、この3年間の苦労が水の泡になってしまう。
私の苦労、それは―――避妊薬を飲み続けること。
この3年間誰にもわからないように、毎日飲み続けてきた。
ナーナ姫にも、侍女にも、大臣の方々にも、もちろん陛下にも―――。
私が生まれた国は、帝国よりもずっと東に位置している。国では、医学や薬学などに関することが発達していた。
また、王族は医学や薬学を学ぶ決まりがある。本来は、私欲に使うために学ぶのではない。戦や天災で傷ついた民を助けるために学ぶのだ。
私欲のために使うことを許してほしい。いや、これは私欲などではない。
ナーナ姫果ては陛下のため―――。
陛下も感じているはずだ。愛してもいない女との間に生まれた皇子に国を継がせるよりも、今も愛し続けている、女性との間に生まれた皇女に、国を継がせたいと。
そしてそれが、王妃として私にできるあの方への贈り物。
思考に浸っていたその時、視界の隅に一瞬光るものが見えた。広場に集まっている民の装飾品の類だろうか。気になって目を向けた。
考えるよりも先に体が動いた。
いつの間にかナーナ姫を抱き上げていた陛下を突き飛ばし、ナーナ姫を胸にかばった。
ドス―――
キャー―――
背中に矢が刺さる衝撃を感じた。瞬間、民たちの悲鳴が聞こえる。
背中が熱い。燃えているようだ。
「……お……おかあさま……。」
「……なんですか、ナーナ姫……危ないですから…お父様や近衛兵といっしょに、王宮の中に入りましょう。近衛兵の方々、しっかりしてください。陛下と皇女を王宮内へ。」
「か……かしこまりました。陛下、皇女様こちらへ。」
「王妃様もお早く宮殿内へ。」
「い…いえ。すみませんが肩を……かしていただけますか。」
近衛兵の肩をかり、私は再びバルコニーに立った。
「……国民の皆さん、ご心配をおかけしました。私は大丈夫ですから……皆さんもお早く非難をなさってください。ここは危険かもしれません……。」
「王妃様お早く。」
「は…い。では、皆さん本当にご迷惑をおかけしました。」
バタン―――
扉から中に入り扉が閉まった瞬間、視界が暗くなり倒れた。
「王妃様。王妃様。早く医師をお連れしろ―――。」
「おかあさまー。」
ナーナ姫の泣き声や周りの声を遠くに聞きながら、私は意識を失った―――。
ここまで読んでくださった方、ありがとうございます。
次回は皇帝陛下、オルデロール・マクシオン=マクセス視点いきたいと思ってます。