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なんか長い……。
広場に面したバルコニーに出るために王宮内を移動中、私は一歩引いたところで仲の良い親子の背中を追っている。私もその中に入りたいのに……私と親子との間には見えない壁を感じてしまう。
血の繋がりだろうか。あのお方からの愛が得られていないせいだろうか。
姫には、うぬぼれではなく好かれていると、感じることができているのに……あの中に私は入ることができない。私が子を産むことができれば入ることができるのであろうか。
しかし、私は子を産むことなどできない―――。
「おかあさま。」
いつの間にか陛下に抱き上げられていた姫が私のドレスのスカートを引っ張っている。
「え……なあに。」
「おかあさま、だいじょうぶぅ。ばるこにーにつきましたよ。」
考えに浸っているうちに、バルコニーに出るための扉の前についていらしい。
「ええ、大丈夫よ。心配してくれてありがとう、ナーナ姫。」
姫の頭をなでながら私は感謝をのべた。
「雪那いかがした。呆けている時間が多いぞ。今日という日に使い物にならないのでは困るな。帝国の王妃としての役目を忘れるな。」
「も……申し訳ございません。」
またしても誓いを破ってしまった。本当に私は役に立たない王妃だ。
「おとうさま、おかあさまをいじめてはダメです。」
小さな体が両手を広げ私を背中にかばった。
陛下は呆然と姫を見ていらした。
こんなことではダメなのに、それだけで涙が出そうになった。そしてまた私は、顔を隠すベールに感謝した。
「ナーナ姫、お父様は怒ったわけではないのですよ。国を護るものとしての役目をお母様に教えてくださったのです。」
「ほんとうですか。」
「ええ、もちろん。お母様がナーナ姫に嘘をついたことがありましたか。」
「……ないです。」
「では、お父様に悪いことをしてしまいましたね。謝りましょう、ナーナ姫。誤解させてしまったのは、お母様も原因ですからお母様といっしょに謝りましょうね。」
「おとうさま……ごめんなさい……。」
「陛下、申し訳ございません。」
「よい。ナーナの正義感は国を護る王族として、必要なものだ。はなから怒ってなどいない。」
「広いお心に感謝いたします。陛下」
こんな時私は、ナーナ姫に対する深い愛情を感じる。仲の良い親子を見ることはうれしくもあるが、寂しくもある。
その中に私は入ることができないから――。
「お取り込み中悪いけど、そろそろ国民に顔を見せていただけないかしら。」
「オリビア。」
「宰相殿。申し訳ございません。私が少しボーっとしてしまって、ナーナ姫と陛下を心配させてしまったのです。」
「いいえ。いいんですよ、王妃様。どこぞの馬鹿が毒を吐いていただけだとわかっていますから。」
「どこぞの馬鹿とは余のことではないだろうな。」
「一言もそんなことは言っていませんよ、陛下。そもそも、賢帝とたたえられている陛下を馬鹿などと、言うはずがございません。」
「……もうよい。いくぞ。」
陛下は扉を開け放ち行ってしまわれた。
「あーあ、ふてくされてやんの。」
「何かおっしゃいましたか、宰相殿。」
「いいえ。王妃様も皇女様もお早くどうぞ。」
「ありがとうございます。行ってまいりますね。行きましょう、ナーナ姫。」
「はい。」
オリビア・テローム。帝国マクセウスの宰相、女性である。侯爵家の出身で、3人の子持ちの母でもある。彼女の女性視点からの政治は帝国に大きな影響を与え、より発展した国へと導いた。
宰相、オリビア殿を見てもわかるように、この国では、男尊女卑の意識が低い。
女性でも王位継承権がある。皇子のほうが継承権において優先ではあるが、そして、手続きが面倒ではあるが、できるのだ。
陛下が愛した人との子――ナーナ姫に国を継がせることができるのだ。
ここまで読んでくださった方、ありがとうございます。