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久々の更新です。
楽しんでいただけるとよいのですが……。
貴族の館にしては小さめのこの屋敷で、この国に来てはじめての安息の時間を私は手にした。
安息の時間の時間の中にも考えることはたくさんある。
ナーナ姫はさみしい想いをしていないだろうか。
陛下はどうしているだろうか。
いなくなった私のことを少しぐらい考えてくれているだろうか。
それとも邪魔ものを厄介払いできたと考えているだろうか。
考えることはすべて王都に置いてきたモノのことばかり。
けれど私には戻る資格はないのだ。
すべて自分から投げ出してきたのだから―――。
***
体調がすぐれないからと侍女をさがらせ、ナーナ姫にも部屋に帰ってもらった。
侍女達は体調がすぐれないなら侍医を呼ぶとしきりに言っていたが、自分で対処できるからと言って断った。
ナーナ姫は、ひどく心配した表情であったが『おかあさまのためなら』とおとなしく帰ってくれた。
一人になり考えるのは、腹にやどっているであろう子のこと、そればかりだった。
この子の存在を明かしていいものか。
生まれてきた子が皇女であれば何の問題もない。けれど皇女が産まれてくるという保証はどこにもない。
しかし、このままここにいては、黙っていいてもおいおい子のことがわかってしまう。
……堕胎―――
一瞬考えて、頭を振った。
たとえ、片親であろうとも、愛情を持って生まれてくるのだということを伝えたい。
それに、愛するあの方との子……。堕胎なんてできるはずもなかった。
しかし、このままこの子を生かして、この子が父親愛されなかったら……。
愛され、望まれて生まれてきた存在じゃないと子に知れたら……。
子供にそんな運命を背負わせるなんてできない。
―――いきつく答えは一つ。
ここから逃げなくてわ。子のため……ううん、何より私のために。
どうやって逃げたらよいのだろう。
逃げた後の生活はどうすれば……。
……国元には帰れない。
何より私は庶民の生活がどんなものか聞いた話程度にしか知らない。
お金はどうしよう。この部屋にある宝石やドレス類など持ち出せる小物は大層な金額で売れるであろう。しかしこれらは、民たちの血税で買われたもの。私のためだけに使っていいものではない。
誰かに協力を頼めばいいのだろうか。しかし、ここはあの方の城、わかってしまったら最後私に味方はいない。
どうすれば、どうすればいいのだろう。
この子を無事に産めた後なら、私はどうなっても構わない。
考えに夢中になりすぎて、部屋に人が入ってきたことに気付かなかった。
「…ひ…ま。……王妃様。」
―――ッビク
「さ……宰相殿。」
「脅かして申し訳ありません。ノックをしても返事がなかったものですから。」
「……すみません。少し考えに夢中になりすぎていたようです。」
「いえ、そのようなところにお邪魔して申し訳ありません。ところで、ここに来る途中ナーナ皇女にお会いしまして、お母様の具合が悪いようだとお聞きしたのですが。」
「大したことではありません。最近気分がすぐれなくて……。まだ、完全に回復とはいかないようですわ。」
話している間にも徐々に気分が悪くなる。一瞬視界が真っ黒に染まった―――。
―――ガクッ
「王妃様!!!大丈夫ですか。」
倒れた私の身体を支えてくれたのは、宰相殿であった。
「ええ。心配をおかけして申し訳ない。」
「…………。」
「宰相殿?」
「………王妃様、最後の月の穢れはいつでしたか。」
頭の中が真っ白になった。
「王妃様、私も女です。それに子供を3人産んでいます。先ほど、気分がすぐれないとおっしゃっていましたし、微熱もあるようですね。…………妊娠……してらっしゃいますね……。」
こんなにすぐにわかってしまうなんて……誰にもわからないうちに逃げ出そうと思っていたのに―――。
次回はいよいよ王宮逃げ出し編。
雪那はどこに逃げたのでしょう?