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やっと書きたいとこまできた。
過去編長かった。
コンコン―――
ドアからの控えめなノック音で現実に引き戻された。
「どなたですか。」
ギィー―――
少しの音をたててドアに隙間が開いた。
その隙間から、慣れ親しんだ愛らしい姿が顔を出す。
「おかあさま、わたしです。ナーナです。おへやにはいってもかまいませんか。」
「ええ、かまいませんよ。こちらにいらっしゃい。」
侍女に目配せをし、お茶の準備をしてもらう。
「はい。」
とても元気のいいナーナ姫の声を聞き、思わず笑みがこぼれた。
「ところで姫、どういったご用件でいらしたの。」
「おかあさまにききたいことがあるんです。」
「なにかしら。」
私はナーナ姫の目を見て話す事ができるように身をかがめた。
「おかあさまはおとうさまとケンカでもなさったのですか。」
思ってもみなかったことを聞かれ、ドキっとするが、それを出すことなく話を続けた。
「どうしてそう思うのです。」
「だって・・・・・・。」
「ん。」
「だって・・・・・・ちかごろおとうさまとおかあさまがいっしょいるところをみていないです・・・・・・。」
聡いナーナ姫には気づきかけているようだ。そして、両親が不仲である可能性に、その幼い心を痛めているようだ。
コンコンコン―――
ノックの後に侍女がカートを押しながら入ってくる。
「ケンカなんてしていないわ。ちゃんと説明をするからソファーに座ってお茶を飲みながらお話しましょう。」
「・・・・・・はい・・・・・・。」
気落ちしているであろうナーナ姫を誘いソファーに座らせた。
カチャ、カチャ―――
横で侍女がお茶の準備を始めた。ポットとカップにお湯を注ぎ、陶器を暖め、その間に紅茶の分量を量っている。
そんな光景を横目に私はナーナ姫に話しかける。
「お父様とお母様はケンカなんてしていないわ。これは、約束できます。」
目を潤ませ始めたナーナ姫にはっきりと告げた。
「で・・・は・・・・・・グス・・・なぜいっしょにいないんです・・・・・・?」
「それは・・・・・・。」
ここで一つでも迷って告げることになってしまったらナーナ姫に不信感を持たせてしまう。
「それは・・・・・・お父様のお仕事が忙しくて、お母様の空いた時間とあわないの・・・・・・。心配をかけてしまってごめんなさいね。」
「ほ・・・・・・ほんとうですか・・・・・・グスン。」
「ええ。本当よ。お母様はナーナ姫に嘘をつきません。」
時間が合わないのは事実でだった。
時間があうことを拒否するかのように、陛下の予定が急に忙しくなった。
それはまるで、時間があわないよう予定を組んでいるとしか思えないほどに。
カチャ、カチャ―――
侍女がテーブルに紅茶の入ったカップと軽くつまめるお菓子を置いた。
広がる紅茶と食べ物の匂い、とたんに気分が悪くなった。
口元にハンカチをあて、立ち上がる。
「・・・・・・おかあさま?」
「ちょっと・・・失礼するわ・・・・・・。」
喋っている間にも気分の悪さは進んでいる。
「王妃様?大丈夫でございますか?どこか御加減が悪いのですか?」
この間まで体調を崩していた私を心配して、侍女も声をかけてきた。
「大したことはないの。ただ少しお手洗いに失礼するわ。」
ギィ、バタン―――
駆け込むように扉を閉め、洗面台の流しに吐いた。
「ゲホッ・・・ゲホ。」
胃には何も入っていなかったから吐いたのは胃液だけだった。
口に広がるやな匂いと味。
ジャー―――
水で口の中をすすいだ。
最近、食べ物の匂いで気持ちが悪くなることが多くあった。しかし、今のように吐いたことはなかったのだが、まだ、体調が優れないのだろうか。
そんなことを考え、サッと血の気が引いた。
思い当たることがあるのだ。
体調不良であやふやにしていたから気づかなかった。それにもともと不調気味でもあった。
月の穢れがきていない。
・・・・・・妊娠・・・・・・・・・・・・。
思いあったってすぐに考えたことは、ここから逃げ出すことであった―――。
楽しんでいただけたでしょうか。
亀更新で申し訳ありません。今後ともお付き合いしていただけたら幸いです。